「柳と言います。旦那様からお聞きになっていませんでしたか……?」
旦那様というのは多分兄のことなんだろう。
肯定の意味でコクンと頷く。
あの人が、私の意見など聞くはずがないことは分かりきっている。
「お嬢様、お召し物はどうしますか?手伝いが必要な場合はーー」
「それくらい自分でできるわ」
被せてそう言うと、私は静かに出ていくのを待つが。一向に出て行く気配がなくて、仕方なくベットから立ち上がって脱ぎ始めた。
「え、あ……わわわっ失礼しました!」
さすがに気がついたようで、慌てて部屋を出て行った。
ーー躾がなっていない犬には調教をしなくては。
それが兄の口癖。
兄に怖けずいた姉と弟達は従順な犬に成り下がった。
私だけは嫌だった。人の顔色を見ながらびくびくして生きないといけないなんて、死んでも嫌。
でも分かるんだ、兄には逆らえないと分かっている私がいることを。
ーーコンコン
「お嬢様、着替えが終わりましたら食事にしましょう」
ノックの後に聞こえた声に小さく返事をした。