「今日も平和だなぁ」

何て呑気な…。

テスト期間につき、今日の授業は、午前中で終了していた。
いつもの様に、煉夜と屋上で、まったりと過ごす。

「それにしても、これ旨いな。
どうしたんだ?」

テーブルには、オニギリや華やかなサンドイッチ、おやつのケーキなど、節操なく重箱に詰められた食べ物が並べられていた。

「マリュー様が、まだ出張中でしょ?
そうしたら、律が寂しがって、朝なかなか離してもらえなくてさ……学校に来られないもんだから、手作りのお弁当とおやつで釣ってみたの…」

意外とこれが楽しくて、ついつい作り過ぎてしまったのだ。
律は、目論み通り、大喜びでお留守番を宣言してくれた。

「弁当を持ってくるなとメールがあったから、何事かと思ったぞ?」
「うん、ごめんね」

細くて小柄なくせに、よく食べる煉夜は、次々と口に放り込んでいく。

「さすがにこんなには無理だよね…」

重箱の五段重ねは、さすがに無理があったかも…。

「大丈夫だ。
今応援がくるからな」
「応援?」

そこで、バタンっと屋上の扉が開いた。
そして、スッと煉夜の手元に、紙人形が二枚飛んできた。

「無事着いたようだな」

紙人形に続いて小屋に入って来たのは、美輝と夏樹だった。

「任務完了しましたっ」
「うむ、では褒美をとらす」
「えっ、わぁすごいぃ」
「本当だ。
ウマそ〜ぉ」

応援って…。

「煉……夏樹までよく……」

男の子を、行き来不可能な女子校舎に連れてくるなんて…。

煉夜は得意気に手元の紙人形を摘まんで見せた。

「私を誰だと思っている。
この国随一の陰陽師の家の跡取りだぞ」
「うん……そうだったね…」

御影一族は、代々続く陰陽師の家系。
そう聞くと、純粋な陰陽道を極める一族のようだが、実際は違う。

『この国の中だけで、陰陽道を極められるものかっ』

と一連発起した先代と当代によって、広く世界中の術も理解し、取り込んでいった。
それによって、名実共に、最強の陰陽師の一族が出来上がったのだ。
ちなみに、先代と当代は、月陰の創設者だ。

「陰陽師なんてスゴイっ。
さすが御影先輩っ」
「うむ、煉夜様と呼ばせてやろう」
「はいっ、煉夜様っ」

それは…どうなの?

「これ、ウマッ。
結姉が作ったのか?!」
「うん。
いくらでも食べて…」
「っやっりーぃ」

不思議よりも食い気か……そこはやはり刹那の身内…。

「…おねぇちゃん」
「うん?」

夏樹の食べっぷりに惚れ惚れしていれば、控え目に美輝が声を掛けてきた。

「あのね………っ勉強っ教えてくださいっ」
「は?」

ガバッと頭を下げてから、上目づかいでこちらに訴えてくる。

「だって、おねぇちゃん勉強できるんでしょ?
テスト、いっつもトップだって聞いたよ?」
「マジで?!
俺にもお願いしますっ」

今更すぎないか?

「ねぇ、おねぇちゃんと煉夜様は、この学園始まって以来の秀才ペアだって本当?」

それも今更だよ…。