”ブティック艶―エン―”

姉に連れてきてもらった時と同じ様に、刹那さんの後をついて裏口へと回る。
チャイムを鳴らし、少しすると、男の人の声が聞こえた。

「お〜刹那。
話は聞いてる。
入れ」

タバコをふかしながら出てきた人は、何だかダルそうな人だった。

今日はリリィさんはいないのかな?

「失礼します。
結はもう来てますか?」
「いや、出掛けに何かあったらしくてな。
遅れるらしい。
先触れが早々に来たからな」
「先触れ?」

案内された和室の部屋の扉を開け、しゃくった顎の先には、煉夜がいた。

「来たか。
私を待たせるとはいい度胸だな」
「っ煉さんっ…っ」

刹那お兄さんの顔が色をなくしていく。
確かに私も苦手だが、ここまでではないと思う。

「何だ?
刹那。
相変わらず女性に対する礼儀がなってないな。
普通は赤くなるもんだ。
何で血の気が引くんだ?」
「ッえっいや…いいえ。
っお疲れ様ですッっ」
「っ兄さん!?」
「刹兄!?」

っ何で土下座!?

「なに土下座してんの?」

その声は、後ろから聞こえた。

「っ結姉っ」
「ああ、結。
遅かったな…?
律を連れてきたのか?」
「っひっうっうぇっ…っ」

振り向けば、姉が小さな子どもを抱えて立っていた。

「…おねぇちゃん…?」
「…結ちゃん?」
「ごめんね、遅れて。
リリィ、布団ある?」
「あるぞ。
ちょっと待ってろ」
「うん。
悪いね」

案内してくれた男の人が、去っていく。

あれ?
今、リリィって言わなかった?
それに、その子どもは誰???

「盛大にハテナマークが出てるぞ?
結、まぁ入れ」
「うん。
雪仁さん達も入って」
「ああ…」
「っうっうっふっ…っ」

気になる。
泣いてるのも気になるけど…。

「それで?
律は何で泣いてるんだ?」
「昨日の夜からずっとだよ。
お父様が出張で、昨日からいなくて。
今日私が出掛けるって知ったら大泣きするんだもん…」
「っひっうぇっ…ねぇしゃま…っうっ」
「はいはい。
ちゃんと居るでしょ?」
「結〜布団、ここでいいか?」

戻ってきたリリィと呼ばれた男の人は、姉のすぐ後ろに布団を敷いた。

「ありがと。
律、ここに居るから少し寝なさい」
「っやぁっ…ハクちゃんはぁ?」
「今日は熱があるから、喚んじゃだめ。
あ〜ぁ夏樹君には説明してないけど…しょうがない……黒狼」

姉の傍らに黒い影が落ち、そこから大きな黒い狼が飛び出した。