脱線しすぎて目的を忘れる所だった。
さっそく雪仁に、母の事で気になる事はないかと聞くと、やはり夜の外出には気づいていたようだ。

「あと気になるのは……手帳」
「手帳?」
「お母さんの青いやつですか?」
「そう。
引っ越しの時に鞄から滑り落ちたんだ。
その時、中身が飛び出して…拾おうとしたら……」


『っ触らないでッ』

突然豹変したような只ならぬ様子に驚いて手を引っ込めた。

『っ…ごめんなさい…。
これ、御守りが入ってるの…本当にごめんなさいね。
ありがとう』
『いいえ…何の御守りなんですか?』
『……大事なものが戻ってくるおまじないがかかってるのよ…』
『おまじないですか?』
『ええ、もの凄い効き目があるんですって。
これをいつも身に付けて、想っていれば、必ず叶うって』
『叶うと良いですね』
『ええっ』


おまじないなんて信じられるような人だっただろうか。

「それって…変な模様が描いてあるやつですか?
手帳に挟まってる…」
「多分そうだよ。
写真だった様に見えたけど…」
「写真?」

何だろう…何か引っ掛かった。

「結ちゃん?
どうかしたかの?」
「…いえ…写真の裏に模様…どこかで最近そんな資料を見たような…」
「呪いじゃからのぉ。
大事なもの……昔、『失せ物様』と言う宗教団体があったのぉ」
「っそれですッ。
最近台頭してきた組織で、失せ物ではなく、何かに取り憑かれた者を祓う為の呪いを行っているとか」
「祓う?
ええ事じゃないかい?
眉唾もんか?」
「ええ、祓うような力はありませんよ。
身内に悩みがある人達を集めて、お金をせしめているんです。
精神的におかしくなっている身内がいたり、引きこもりで困ってる人達が引っ掛かってるみたいで…」
「ほぅ、まぁ信じたくないわな。
何か悪いものに取り憑かれてると思いたくもなるか…」
「じゃぁ、お母さんはその…宗教に?」
「間違いない…。
毎晩、十時に儀式があるっ」

別に呪いに力はない。
その呪いをすることで、いつかは救われると思うのは、信者達には必要だろう。
だが、本当にまずいのは、その組織が定期的に行うデモンストレーションだ。
ある薬によって、モニターになる者を狂わせ、それを”祓う”事によって少しずつ信者達の家族も”祓って”いるとしている。
”祓う”それは”死”か”生”。
使っている薬は、人によっては死にいたるアレルギー症状を引き起こす。
モニターが”死”ならば、失敗。
想いが足りていないと言う事。
”生”ならば成功。
信者達の家族の症状が少し軽減されたと喧伝する。
狂った組織だ。

「どうするんじゃ?」
「…母に会います。
くだらない組織からは引き離さなくては…」
「僕も協力するよ」
「私もっ、お母さんにはちゃんと幸せになってほしいもんっ」