まだ明るい時間。
本部を出て、屋敷へと向かう上空。
いつものように風鸞に乗って今日はゆっくり、のんびり飛んでいる。
一人になると考えるのは、母の事。
思い出される母の姿は、背を向けている姿と、怯えの浮かんだ瞳。
どうしたら良かったのだろう。
何かできることはなかっただろうか。
そんな事を考えてしまう。
《我が主。
佐紀様があちらに》
「うん?」
見れば、丘の上でこちらを見上げて、佐紀が一人ぽつんと立っていた。
風鸞から飛び下り、佐紀の前に降り立つ。
「どうしたの?」
「そろそろ帰る頃だと思って…。
少し一緒に歩かないか?」
「いいよ」
風鸞は気をきかせたらしく、上空へと消えていった。
こうしてこの地を歩くのは初めてかもしれない。
いつも風鸞で空を行くか、転移魔術で移動してしまうので、屋敷の周りくらいしか散策した事がない。
ここは、本部とマリュヒャの屋敷のちょうど中間辺りだ。
周りには芝生の様に短い草の生えた草原が広がり、小川や森が見え、長閑な風景が夕日に近付く陽の光に映えている。
無言で隣を歩く佐紀が、景色に気をとられていたこちらを見つめていた。
「何?」
「いや、さっきより良い顔をしてる」
「さっきって…もしかして風鸞に乗ってる時?」
「ああ、暗い顔をしてた…と言うか、何か悩んでるような波動を感じた。
だから、声を掛け辛かったんだ」
「…そっか…ありがとう。
心配してくれたんでしょ?
でも、大丈夫だからね」
笑って見せると、そっと手を握られた。
なぜか佐紀が困った顔をして、そのまま手を繋いで歩く。
心地良い。
佐紀が隣にいると、知らないうちに強ばっていた肩の力が抜けるような感覚を覚える。
どれだけ強がって見せても、佐紀には全て見透かされている様で、逆に気が楽になる。
佐紀の前では弱くなっても良いんだと思える。
「話してなかったよね、母の再婚相手。
刹那の父親だったんだ…。
今日、刹那の弟達に会った…。
刹那にも聞けなかったけど、あの人達の家族になれたんなら、母も妹も幸せだと思うんだ。
佐紀は……刹那の父親の会社に派遣された事あったよね?
どんな人だった?」
「そうだな……仕事に向き合う姿は、マリュー様に似ている。
先の先まで考えて、常に多くの手を模索し続ける、素晴らしい経営者だ。
煌夜様も一目置く程だよ。
けどそれ以外の時は…俺の父に似ている…」
「?フィル様に?」
そうして思い浮かんだのは、いつだって快活に笑い。
冗談を言って周りを困らせ、仕事そっちのけで遊ぶのが好きなフィリアムの姿。
子どもの様な大人。
けれど、懐が広く、包容力がある素敵な人だ。
佐紀がそんなフィリアムに似ていると言うのなら、心配はいらないだろう。
本部を出て、屋敷へと向かう上空。
いつものように風鸞に乗って今日はゆっくり、のんびり飛んでいる。
一人になると考えるのは、母の事。
思い出される母の姿は、背を向けている姿と、怯えの浮かんだ瞳。
どうしたら良かったのだろう。
何かできることはなかっただろうか。
そんな事を考えてしまう。
《我が主。
佐紀様があちらに》
「うん?」
見れば、丘の上でこちらを見上げて、佐紀が一人ぽつんと立っていた。
風鸞から飛び下り、佐紀の前に降り立つ。
「どうしたの?」
「そろそろ帰る頃だと思って…。
少し一緒に歩かないか?」
「いいよ」
風鸞は気をきかせたらしく、上空へと消えていった。
こうしてこの地を歩くのは初めてかもしれない。
いつも風鸞で空を行くか、転移魔術で移動してしまうので、屋敷の周りくらいしか散策した事がない。
ここは、本部とマリュヒャの屋敷のちょうど中間辺りだ。
周りには芝生の様に短い草の生えた草原が広がり、小川や森が見え、長閑な風景が夕日に近付く陽の光に映えている。
無言で隣を歩く佐紀が、景色に気をとられていたこちらを見つめていた。
「何?」
「いや、さっきより良い顔をしてる」
「さっきって…もしかして風鸞に乗ってる時?」
「ああ、暗い顔をしてた…と言うか、何か悩んでるような波動を感じた。
だから、声を掛け辛かったんだ」
「…そっか…ありがとう。
心配してくれたんでしょ?
でも、大丈夫だからね」
笑って見せると、そっと手を握られた。
なぜか佐紀が困った顔をして、そのまま手を繋いで歩く。
心地良い。
佐紀が隣にいると、知らないうちに強ばっていた肩の力が抜けるような感覚を覚える。
どれだけ強がって見せても、佐紀には全て見透かされている様で、逆に気が楽になる。
佐紀の前では弱くなっても良いんだと思える。
「話してなかったよね、母の再婚相手。
刹那の父親だったんだ…。
今日、刹那の弟達に会った…。
刹那にも聞けなかったけど、あの人達の家族になれたんなら、母も妹も幸せだと思うんだ。
佐紀は……刹那の父親の会社に派遣された事あったよね?
どんな人だった?」
「そうだな……仕事に向き合う姿は、マリュー様に似ている。
先の先まで考えて、常に多くの手を模索し続ける、素晴らしい経営者だ。
煌夜様も一目置く程だよ。
けどそれ以外の時は…俺の父に似ている…」
「?フィル様に?」
そうして思い浮かんだのは、いつだって快活に笑い。
冗談を言って周りを困らせ、仕事そっちのけで遊ぶのが好きなフィリアムの姿。
子どもの様な大人。
けれど、懐が広く、包容力がある素敵な人だ。
佐紀がそんなフィリアムに似ていると言うのなら、心配はいらないだろう。


