「……終わった……っ」

もう目を開けていられない…。

シパシパする目を擦りながら、桂教授の研究室へと向かう。
夜が明けて次の日の昼だ。

お腹が空いた…。
そう言えば夜も朝も食べてない…っ。

研究室を梯子しまくった結果、お礼金は学生バイトの給料の約半年分、手に入った。

ゴハン…ファミレス?…レストラン?…一人は不安だな…やっぱ屋敷に帰ってから……。

そうこうしているうちに研究室の前に辿り着いた。

「おお、戻ったかぁ……ヨレヨレじゃな…」
「下手な戦場よりもハードでした…」
「わっはっはっ、結ちゃんならそうじゃろうの。
これは今回の礼じゃ。
助かったわい」
「いいえ、終わって良かったです…」
「真紅さん。
学校は大丈夫ですか?」
「?問題ないですよ?
毎回こんな感じですから」

あまりにもまともな事を聞かれた為、一瞬何を聞かれたのか分からなかった。
私の周りには、昔からそんな心配をする人はいない。
何て常識ある人だろうと、こんな事で大袈裟にも感動してしまった。

「そうですか?
教授、真紅さんはまだ学生なんでしょう?
無理に付き合わせてはいけませんよ」
「結ちゃんなら、休んだところで成績に影響は出んよ。
常にトップじゃし、この大学のどの学生より頭ええぞ?
どの学部の入試試験を受けても、余裕で首席を取れるわい」
「???因みに何年生なんです?」
「高二です。
教授の言う通り心配いりませんよ。
学校の方も、テストの成績さえよければ、出席日数は融通してくれるので、今の状態なら問題になりません」

星花学園は、校則も弛く、バイトも許される自由な校風だが、それなりにレベルは高い為、成績はしっかりと見られる。
逆に言えば、成績さえ良ければ万事問題ないのだ。

「それじゃぁ、私は失礼します」
「おお、気を付けて帰るんじゃぞい」
「はい」

研究室を出て、学内を抜けるうち、すれ違う教授達からお菓子やら何やら手渡され、鞄がパンパンになっていく。
それに比例して、来年がものすごく不安になった。
門を出て、何か買っていこうかと店を物色していれば、後ろから声を掛けられた。

「真紅さんっ」
「?神城さん、どうしました?」

振り向けば、桂教授のアシスタントの神城雪仁が笑顔で立っていた。
走ってきたらしく、肩で息をしている。

「っいや、僕も帰るから、一緒にと思って」
「良いですよ。
あっ…お腹空いてませんか?」
「そう言えば、もうお昼だね」
「お家の方、誰か待ってます?」
「ううん。
みんな仕事と学校で、今は家には誰もいないよ」
「なら、そこのファミレスに付き合ってもらえませんか?
一人で入るのは気が引けるので」
「もちろんっ僕で良ければっ」
「じゃぁ、行きましょうっ」

良かった。
お腹空いてると魔力がぶれるし、もう本当に限界だったんだよね。