「刹那も来るってさっ。
佐紀も呼び出すか」
「うん?」
「『うん?』じゃない、お前がするんだ」

『え〜っ』と言いそうになった口を嗣ぐんだのは、煉夜があまりに真剣な顔をしたからだ。

「…わかった…」

仕方なくメールを佐紀に送ると、一分もしないうちに返事が来て驚いた。

「すぐに行くって…」

早すぎじゃない…?

「待ち兼ねてたんだろ。
だいたい、お前、佐紀とこまめに連絡取り合ってるのか?」
「うん?
業務連絡?」
「っんなはずあるかっ。
婚約者だろうがっ。
毎日二桁はメールのやり取りをするのがっ、恋人ってもんじゃないのかっ?」
「恋人…?
婚約者とは違わない?」
「「「………」」」

なぜそこで呆れられるのかが分からないんだよね…。

「っ結姉…何て言うか…もうあの人とは夫婦って言うのか…船の時も、一緒に居るのが自然って言うか…」
「恋人同士の関係は終わってるんだね…。
確かに、おねぇちゃんからベタベタ、甘々なところを想像できないけど…」

弟妹の意見に、ほぼ全員が同意したようで、気の毒そうな目を向けられた。

「結華ちゃん…初恋は?」

そうな明人さんの問い掛けに、記憶を探った。

「?マリュー様でしょうか?
小学校に上がる前ですね…シェリー様に、『あれは私のだからダメよ』と言われて玉砕しましたが?」
「結…好きって感情は理解しているか?」

煉夜の唐突な質問に、少しムッとしたのは当然だろう。

失礼なっ。
でも…あれ?

「うん?
好きって…あれでしょ?
『強く惹かれるモノ』?なんだよね?」

確か辞書にそんな感じで書いてあったはずだ。
すると、煉夜は、あからさまに遠い目をして溜め息をついた。

「…あ〜分かった…。
佐紀に言っておく…」
「瀬能君…良く婚約まで漕ぎ着けたねぇ…」
「あれは人とは色々と違うからな…ほっといたら、結が死ぬまで片想いで通すつもりだったみたいだし…。
苦労性だなぁ…アイツ…」

何か理不尽感じる…。

そう思っていれば、ツンツンと服の裾を引っ張られた。

「ねぇさまっ、リツは、ねぇさまダイスキですよっ?」
「うん?
知ってるよ?
ねぇさまも律の事好きよ?」

そう言うと、可愛らしい笑顔で笑いながら、刷り寄ってきた。
そんな律を抱き上げると、更に甘えるように手を伸ばしてきた。

「えへへっ」

ぎゅっと抱きついてくる小さな体に癒されていれば、じっとりと絡み付くような視線を感じた。

「っおねぇちゃんっ…私は?」
「…ゆっ…っ結姉っ…」
「うん?
美輝も抱っこ?」
「っちっちがっ…うっ…っその…抱っこっ…ううんっすっ好き?」

何を聞いてくるかと思えば…。

「?嫌いじゃないよ?」
「「…好きじゃないんだ……っ」」

うん。
意地悪が過ぎたかもね。

とりあえず、笑いながら言い直しておく。

「ふふっ、好きだよ。
大事な妹と、可愛い弟分だからね」
「「っ…!」」
「結もタラシか…?
マリュヒャ様もあれで確かに…」
「煉、何言ってるの…?」
「いやぁ…将来的に、ファリア家だけで、世界を征服するんじゃないかと…。
それはそれで面白そうだなと…」
「…世界征服か…」
「「「っ真面目に考えるところなの!?」」」
「可能性は、何であれ押さえておくものでしょ?
だいたい、今まで誰一人として実現した事がないんだよ?
それなのに、『世界征服』って言葉だけが独り歩きしてる。
そろそろ現実にしてみるべきじゃない?」

そう言いながらニヤリと笑ってやれば、明人さんが笑いだした。

「っはっははははっ」

それに釣られて皆が笑いだす。
その声を聞きながら、今この場所にいることを嬉しく思った。
まるで、幸せな家族の様だ。
大切にしよう。
今この時ではなく、この関係を…。
この先の長くて短い時間を共に…。