「さて、律。
どこに行こうか」
「?ねぇさまといっしょなら、どこでもいいですよ?」
「くっ…魂に刻まれた好意なら、律のシスコンは、絶対に治らんな」
「やめてよ…今そうかもって思っちゃったじゃない…」
「…あの子を許す…?
いくらお父さんでも…おねぇちゃんは私のおねぇちゃんで……」
「例えそれだけ強い想いでも…俺とは関係なくて…結姉は結姉なんだし……」
「お?
あっちは見事にドツボにはまってるぞ?
ほっとくか?」

煉が、ぶつぶつと呟きながら葛藤している美輝と夏樹を面白そうに見て言う。

「いや…ここお墓だしなぁ…。
何かを考える場所には適さないでしょ…」

その端で、明人さんと母も二人でおろおろとしているのに気付いた。

「…どうしましょ…律くんが瑞樹さん?
なら、大人になった律くんは瑞樹さんみたいになるの?」
「待ってっ妃さんっ。
魂の話だよ?
転生だよ?
瑞樹さんはもう律くんで、律くんは瑞樹さんじゃないんだから…あれ?
分かんなくなっちゃったっ…?」
「でもね、これだけは絶対よ?
瑞樹さんは、私なんかより、やっぱり結華を愛してたの…嬉しいんだか悲しいんだか分かんないわ…」
「大丈夫だよっ。
妃さんには、僕がいるでしょ?」
「っ…明人さん…」

なんだかおかしな具合にまとめたぞ…?

「ラブラブだな。
ああ言うのはほっとくに、かぎるな」
「…うん…」

取り残されていた雪仁と晴海は、どんどん落ち込んでいく弟妹の救済に入ったようだ。

何でも良いけど、場所は選ぼうよ…。

「ふむ。
律、ここにな、マリュヒャ様から預かった遊園地のチケットが五枚あるんだが。
誰を選ぶ?」

煉が意地悪気に律に聞いた。

「む〜ぅ。
まずっ、ねぇさまっ。
それとっ、レンねぇさまっと…」
「後二人だな」

うんうん首をひねりながら考える律を、面白そうに笑う煉に苦笑しながら見守っていれば、美輝と夏樹が突然詰め寄ってきた。

「律くん、幸せは半分こだよ?」
「独り占めは良くないぞ?」
「うん?
むぅ〜しかたないですねぇ…。
あとのふたりは、ミキちゃんとナッちゃんでいいです」
「っくっ、結っ見たかっ。
この、まさに『仕方がないなぁ』的な態度っ。
律は大物になるぞっ。
この年で譲歩を知っているっ」
「…いったい誰だ?
教えた奴…。
…確率的にはフィル様?」

…見える…その状況がありありと…フィル様なら有り得る…。

「僕も行こうかな。
そこ、確か父さんの会社が出資してましたから、チケットはいくらでも手に入ります」
「っじゃぁ、私も行くわっ。
…駄目かしら…?」

なぜそこで律に振る?

「いいですよっ。
えぇっと…きさきちゃん?」
「っええっ、妃ちゃんでいいわっ」

良いの…?

「なら僕も仲間に入れて。
アッキーって呼んでね」
「はい。
…おにぃさんもいきますか?」
「え?
…あ…いや…」
「晴海、たまには息抜きも必要だぞ?
このお兄さんは、ハルちゃんだ。
よろしくね」
「っはるっ…!?」
「はい。
ハルちゃん、いっしょにいきましょう」
「っ…わかりました…」
「っ結っ律は、ジゴロの才能もありそうだぞっ。
将来有望だなぁ」
「煉…いい加減にしないと怒るよ…」
「っ…う…ん゙ん゙っでは諸君、出発しようではないか。
園には、リムジンで横付けだ」
「「「!?っ」」」

その瞬間、固まってしまった彼らを、どうやって正気に戻せば良いのだろう…。
煉と律が皆を引きずるように歩いていくのを目の端に捉えながら、思い付いたように、父の墓に向き直った。
そして笑顔で告げる。

「…ありがとう…さようなら…」

振り返らない事を許してほしい。
大丈夫、今度はずっと傍に居るから。
これからの長い時間で愛していくから。
前を楽しそうに行く小さな背中を見て、また笑みが溢れた。

「ねぇさまぁ」
「今行くよ」

もう振り返らない。