家族全員が行くと言うのを、仕方がないと諦めた時、煉夜が口を開いた。

「それならば私も行っ……っ」
「煉夜は仕事があるでしょ?」

すかさず異を唱え、押し留める。

「だがっ…」
「今、本部には実質、頭がいない。
マリュー様も、今は大陸の方で手が離せないし、煉のじぃさまも留守…。
フィル様だけじゃ回らないよ。
煉夜は残って。
大丈夫。
与一達も動くしね」
「っくっ…仕方ないか…。
だが、マリュヒャ様は何をしておられるのだ?
これほど留守にするのは珍しい。
お前……何か私に隠しているだろうっ」

煉夜には、話しておくべきかもしれない。
けれど、今ここで……?。
そう思い、ちらりと皆を見れば、明人さんと真っ直ぐに目が合った。

「構わないよ。
話してくれるかい?
気になるなら、聞かない振りをするよ?」

いや…聞かない振りって…。

「そうよ、気にしないで。
私も、結華の事を知りたいし……だから、お仕事の事とか……その…マリュヒャ…様?……の事とか知りたいし……」
「そうだよ。
おねぇちゃんの事、全部ちゃんと知りたいもんっ。
だから、話して?」

まったく…困った人達だ…。

まぁ、仕方がない。
ちょうどいい所に、新聞もある事だしと、それを手に取り、ある記事を指す。

「これだよ」

そこには、例の黒い竜巻の記事が載っていた。

『…未明から発生した竜巻は、約半月にかけて、多くの被害をもたらし……これによる死傷者は、五百人以上と推定され…』

「あの女が仕掛けた魔具が、人を消してたんだ…。
一般には、異常気象で普通の竜巻の被害を装おったけど、事実は違う。
あらゆる人と、人が創った物が、塵となって消えた。
実際に被害のあった場所に、今残っているのは、自然に生えた草や木のみ。
後は何も残らなかった。
人が居た痕跡すら、全て消されてしまったから…」

縦横無尽に走り回った竜巻は、村を五つ。
街を二つ無に返した。

「っ…何だっそれはっ。
なぜこちらに報告がないっ?!」
「確かに夜陰の管轄になるけど、こちらに上がってくるまでに、被害がありすぎたみたい…。
すぐに手を打つには、マリュー様が動くのが早いから。
あちらでは、ヴァチカンも動いていたし、下手に人を出すよりマリュー様が行った方が混乱が少ない」

あまり協力を好まない…と言うか、月陰を毛嫌いしているヴァチカンも、マリュヒャには多少、それなりの礼儀は尽くす。

「この件は片付いたけど、まだ見つかってない同様の魔具が一つ、あちらにあるみたいで…。
マリュー様は、その調査に出てるんだ」

事後処理も終わったとは言えず、未だに数日に一度の帰宅になっているのが現状だ。

「それと…煉のじぃさまだけど…」
「何だ?」

確信はない。
だが恐らく…。

「サミュー様の話だと、”雪壁の魔女”が行方不明らしい…。
いくら次元移動が出来ると言っても、危険因子を持ったあの神族の女が、この次元の魔女の許可なく入り込む事は不可能。
考えられるのは……」
「彼の魔女が、何らかの理由で倒れたところを突かれたか…。
あるいは…自分の意思で手引きをした…と言う事になるな…。
なるほど、だからジジィは単身で捜索に出たのかっ……」

次元の守護を役目とする”魔女”が裏切ったなどと言う事になったら、混乱は必至だ。
だからこそ、何も言わずに出掛けたのだろう。
いつものように飄々と、煉夜に後を任せて…。