朝の光がカーテンの隙間から差し込んできている。
時計を見れば、六時前。
隣に眠る律とマリュヒャを起こさないように、静かにベットを下りる。
二人のあどけない寝顔に思わず笑みがもれた。
この調子なら、まだ当分起きないだろう。
そっと二人の額に口付け、小さな声で呟く。

「行ってきます」

音を立てないように部屋を出ると、この屋敷のただ一人のメイドに出会った。

「まぁ、お嬢様、おはようございます」
「おはよう、マーサさん。
マリュー様と律は、まだ起こさないでくださいね。
二人とも、よく眠っていましたから」
「そうですか。
昨晩は、お嬢様もその……旦那様と?」

マリュヒャの部屋の方を見て尋ねられれば、気まずい感じで仕方なく答えた。

「まぁまぁっ、そうでございましたかっ。
それは良うございました」

ニコニコと、ものすごく意味深な顔をされてしまった。
ホホホホホっと笑いながら去っていくマーサに、微妙な気持ちになりながら、私に用意された部屋へと向かう。
支度が終わる頃、見計らった様にドアがノックされた。

「はい」

開けると、執事見習いのカイルがにこやかに立っていた。

「おはようございます、お嬢様。
朝食をお持ちいたしました」
「……ありがとう…」

本当にここの使用人は…。

テーブルにきっちりと用意されていく朝食は、絵に描いた様に完璧だ。
食事が終わり、出掛ける支度も整ったのは七時丁度。
玄関ホールに向かうと、そこには、サリファとマーサ、カイルが並んで立っていた。

「「「行ってらっしゃいませ、お嬢様」」」
「……っ…」

ちょっと引きながらも、一つ息をついて気を取り直し、彼らに笑顔を向けた。

「行ってきますっ」

外は、光に溢れていていた。
草原を渡る風が緑の匂いを運び、色鮮やかな鳥達が飛び回る。
やはり異界だなと実感する。

「風鸞」
《はい、我が主》
「自宅まで、速度レベル五ね」
《承知致しました》

そして、通常レベルならば四十分掛かるところを、わずか十五分でたどり着くと、自宅近くの路地に飛び降りた。
そこから二分。
自宅マンションの鍵を開けて中へと入った。
すると、ここで気が付いた。

地味モードにするの忘れてた…。

表で、”真白”結華として生活する時は、目立たないように、黒ぶちメガネにお下げ髪。
服装も地味なロングスカートにブラウスといった、ぱっとしない姿をしていた。
母や妹の前、学校では常にだ。
だが今はと言うと、”真紅”結華として認識された姿になっている。
伊達メガネもなく、お下げにもしていない。
服装も、マーサが用意したお嬢様用の清楚なイメージになっている。
まずいと思い、自室に飛び込もうとした時、タイミング悪く母と妹が姿を現した。