「……遅くなったじゃん……」

「悪い。お前の親御さんの都合が良い時にって言ったけど、やっぱ今日寄って挨拶していく。さすがにそこまでヘタレじゃねぇし」


今日はまっすぐ菜月を帰そうと思っていたのにこのザマだ。


全く俺はどうしたっていうんだろう?菜月を前にしたら歯止めが利かないなんて。



「ええぇ…。いいよ、お父さんがお酒飲んでたら機嫌が悪くなると思うし」

「一応ケジメはつけないと」


菜月との交際は、その場かぎりのものではないって事。


それを自分自身に言い聞かせるためでもあるし。


「……着いたけど。本当に来るの?」

「行く」


自身の顔を一つ叩いて、気合いを入れてから車から降りた。


急に行くって決めたから、何も手土産なんか用意してねぇや。


畏まった挨拶は後日に回すとして、今日は一先ず昨日菜月を帰さなかった事についての謝罪を考えよう。


「本当に良いのね?……呼ぶよ?」


おいおい、菜月まで緊張してどうするんだよ。俺にまで緊張が伝染るじゃねーか。


なぜか小声で「ただいまぁ…」と言う声を遮ったのは、「何時だと思ってんの!?」というドスの効いた声。


続いて廊下をダンダンッと踏みしめながら、その声は近づいてくる。


「あんたねぇ、昨日の今日でどういうつもりなの!?お父さんだって今日も心配して、帰ってからお酒も飲まずにあんたの帰りを待ってたのよ!!菜月に何かあったら、すぐ車を出せるように…って!それなのにあんたは……」


捲し立てるその人、(つまり菜月のおふくろさんだろうが)は、ようやく俺の存在に気がついたようだった。


「……あなたは!?」


おふくろさんの口調は、決して好意的とは言えないものだったが、そうなっても仕方ないか。


昨日菜月に無断外泊をさせた張本人だし、今日もこんな遅くになるまで帰さなかったしな。


ふぅ、と息を大きく深呼吸をしておふくろさんの目を正面に見ながら力んで言った。


「菜月さんと一緒になるつもりで、お付き合いをしています!」



……ちっがーう!! そうじゃなくて!!


俺は『菜月さんとお付き合いをさせて貰っている海野と申します』って言いたかったのに!