そろそろ帰る、と言い出した菜月を車で送って行く事にした。


仕事中だから、と菜月は断りかけたが、こんな時間にバスや電車になんか乗せたくない。


送ってく間の二人の時間を、少しでも長く感じていたい。


俺が送ると言い張ると、最後には菜月も根負けして大人しく頷いた。


店の横にある駐車場で待つように菜月に言うと、山寺に後の事を頼んで店を抜けた。


1~2時間抜けるだけなら問題ねーし。


急いで上着を羽織り駐車場に行くと、菜月が俺の車の横に立って待っていた。


鍵を取り出して開錠してやり、「助手席に乗って」と菜月に声をかける。


「……お邪魔しま…す?」

「なんでお邪魔しますなんだよ、今更」

ぶふっと思わず吹き出した。菜月のこういう天然なとこが良いよな。


「ね、ほんとにこの鍵を使って勝手に部屋に入ってもいいの?勿論、行く前にはメールとか電話をするけど……」


さっきプレゼントしたキーケースを再び取り出し、ちゃらりと音をさせてそれを開けて鍵を見せてきた。


「来る前に連絡してくれれば間違いないな。そうしてくれる?」

「……うん……」


鍵を見つめたまま顔を伏せているらしい菜月の様子を窺う。


「そんなに鍵見てて、もしかして困ってる?」


確かにいきなり合鍵とか渡されたら重いかも知んねーな。もうちょっと付き合ってから渡した方が良かったか?


「……ううん。すごく嬉しいよ。蓮の特別ってことでしょ?」

顔を上げて、にこ、と笑う菜月に安心した。


「でも、私一人暮らしの男の人の部屋に一人で入ったこと、ない。もしかしたら見つけたらマズい物とか、あったりする?」


「見つけたらマズいモノって、何?」

「えっ…えと…」


エロDVDの類いの事か?なら大丈夫。俺はそういうのは観たら山寺に回してるし、まずDVDには頼らないし。


後腐れないオンナで済ます、が一番手っ取り早い……って最低だな、俺。


菜月がいるから今はそんな事はしないけど。


「ほら、仕事の売上表とか仕入れ表とか部屋にあるんじゃないかなぁ…って」

「それはみんなパソコンにデータ入れてるから。……お前、何言い訳してんの?」


車をがら空きのパチンコ屋の駐車場の隅に停めて、菜月の方に身を乗り出した。


別に菜月からそういう答えが聞きたいんじゃない。


返答に困ってる菜月を見て、からかいたくなっただけ。


俺の下であわあわと泡を食う菜月を見たら、変なスイッチが入っちまったらしい。



……30分ぐらい遅くなってもいいよな?