「菜月に会うのは久し振りよね。どう?仕事は慣れた?」

「まだまだだよぅ」


くすりと笑いながら聞く伊織さんには無難な返事を返した。


「初めて会ったのは、菜月が高校生の頃だったよね?それがもう社会人なんて、ねぇ」

「そんなに経ったっけ?」


こうして伊織さんと話すのは何年ぶりだろ?

短大の頃は何回か一緒にショッピングしたこともあったけど。


「それより伊織さんは体の調子はどうなの?具合悪くない?」


伊織さんは心臓が弱いとかで、あんまり無理しちゃいけない体なんだって。


だからヨッシーは伊織さんの体調を一番に考えてるから、告白もしてないしプロポーズも躊躇ってるみたいだって兄貴は言ってた。


体の事を負い目に感じているのか、伊織さんもヨッシーには甘えたりしてないらしい。

二人を見たら分かるんだけど、本当は相思相愛の仲なのにね。



この二人を見たら少し羨ましく思えるんだ。


これだけ長くお互いを想えるなんて、どんな感情が働いたらできるんだろうか。


この二人を繋いでいるのは、ただの《思い遣り》とは違う気がする。


そして、もしかしたら《それ》が私には欠けているんじゃないかともつくづく感じる。


ヨッシーと伊織さんが持っていて私は持っていない《もの》。


それが分かったら、私も本気で誰かと長く付き合えるのかな?





「…あ。なあ!」

「え、何?」

車の窓を流れる景色を無意識に眺めていると、隣に座った海野さんに話しかけられた。


そう言えばこの人もいたんだっけか。


ヨッシーと伊織さんの事に思いを馳せていたら、海野さんの存在を忘れていた。


「さっきから呼んでんだけど。今から皆でシネコン行くんだけど、菜月…は何が観たいの?」


おいちょっと待て。


なんで昨日知り合ったばかりの海野さんに、名前呼びされてんの私。


しかも呼び捨て?


失礼な奴。