知らないんだな、蛯名


僕は観察力に優れてなんかないんだ


周りをちゃんと見ることなんてない、全てうわべなんだよ




8階建てのデパートの8階にある社長室


いつものように椅子に腰掛けて、置かれた企画書に目を通してもなにか落ち着かない


気づけば浮かんでくる、あの女の泣きそうな顔


僕を思ってそんな顔をしてくれたのか


そんな風に思われたことのない僕は、どうすればよかったんだ?


………わからない


頭脳明晰の僕の頭が何も浮かばない


こんがらがってくる