「あ、じゃあ…帰ります。お騒がせして申し訳ありませんでした」

 そう言って私が帰ろうと荷物をまとめていたら、堤さんが後ろからお菓子の箱をポンと投げてきた。

「クッキー。それ持って帰っていいよ」
「あ…ありがとうございます」

 私がお腹をすかせているのを見越していたみたいで、彼は自分用に買ったお菓子を分けてくれた。

 タバコもお酒も好きじゃないみたいで、彼は常に甘いものに囲まれて生きている。
 脳みそを使う人は甘いものが欠かせないんだろうか。
 別に太ってもいないし、それなりのかっちりしたいい体格をしてる。
 ただ座って作業してるだけじゃないのかな。


 駅までの道のり。

 辺りが暗いのをいいことに、私はもらったクッキーをボサボサと食べた。
 甘さが脳を安心させる。

 周囲の人は、堤さんは仕事以外の事は頭にない変人だって言っている。
 でも、至近距離で仕事をしていると、時々そうでもない部分も見られるから、私は堤さんという人を観察するのが面白くなっていた。