人を好きになるというのは、幸せな事も多い。

 でも、好きな気持ちの大きさに比例するように、苦しい気持ちにも陥りやすい。

 私は堤さんを好きになる気持ちをどこかで無意識にセーブしているところがあった。 だから彼との約束を間違えたりするような抜けた部分が出る。
 でも、彼は私が思っていたよりずっと強く私を思ってくれているようだった。

「乙川さん……」
「はい」

「君を抱きしめたい」

 堤さんの低い声が車の中に静かに響いた。