「もしもし。どうしました?」

 特に嫌でも無かったけれど、彼からわざわざ電話をくれるなんてめずらしいなと思っていた。

「いや、今日は変わった事無かった?」
「何もありませんよ。PCもワークステーションも故障無かったですし。電話とかも特にありませんでした。急ぎじゃないという電話に関してはメールしましたが」

 私は真面目に彼の言葉に答えていたんだけど、彼が聞きたいのはそういう事じゃないらしかった。

「高田とはうまくいってる?」
「あ、はい。すごく日本語も上手ですし、何も問題ありませんよ」

 実際、高田さんは冗談が大好きな明るい人で、あまり親しくない人とはすぐに語れない私も彼のペースに巻き込まれてつい笑ってしまう事が多い。
 孤独な作業の合い間に高田さんと雑談するのは嫌いじゃなくて、私の息抜きになっていたんだけど、どうも堤さんは私と高田さんが親しくなるのを警戒しているような様子を見せる。

「私……そんなに簡単に心があちこち行くタイプじゃないですよ」

 やや不満げにそう言うと、堤さんもあわててその本心をはぐらかそうとする。

「乙川さんを疑ってなんかないよ。単に新しい人とうまくやってるのかって心配してるだけで……」

 そう言われても、気まずい空気が流れてしまい、「おやすみなさい」と電話を切る頃には何だか胸に言いたい事が詰まって出ないような変な感覚になった。