「じゃあ……これから好きになって」

 そう言って、彼は唐突に私を強く抱きしめた。
 私はびっくりして、声も出せず彼の腕の中にいる自分を確認するだけで精一杯だった。

「君が僕を好きになるまで、いつまでも待つよ」
「堤さん……」

 ずっと気を張っていたけれど、彼の腕に抱かれてみたら心がジンと熱くなって、体もフワリと軽くなるのが分かった。
 彼のシャツから独特の香りがして、潮の匂いと混ざって何とも言えない官能的な気分にさせられた。

「私の心もそれほど余裕無いですけど……、傍にいるぐらいなら出来そうです」
「十分だよ、それで」

 私に対してどこまでの関係を望んでいるのか分からなかったけれど、堤さんに本気で必要とされているみたいだ。

 孤独な狼みたいな堤さん。

 私の悪条件を全て知ったら、彼はどういう反応をするだろうか。
 多少そこが不安になったりもしたけど、堤さんは皆が言う程変人でもなくて、ただただ孤独に打ちひしがれる一人の男性だという事が分かった。

 そんな彼の傍にいるのは嫌じゃないな……と、私は思い始めていた。