抹茶モンブラン

 涙を拭きながら冷えて真っ暗なアパートに戻った。
 彼をこの中に入れていたら、間違い無く私は鮎川さんを裏切っていただろう。
 人間の私欲というのは、そう簡単に抑え込めるものではない。
 私だってそれほど上質な人間じゃないから。

 寒さを少し緩和する為にお湯を沸かし、久しぶりに自分でコーヒーを入れた。
 光一さん専用だったチョコレートシロップを少し入れてみる。
 ホワッとチョコの甘い香りがコーヒーの中に溶け込んでいく。

 光一さんの好きなチョコレートシロップの入ったカフェモカ。
 これを、彼が美味しそうに飲む姿を思い出す。
 甘いものが大好きな光一さん。
 子供のように嬉しそうに、私の焼いたケーキを食べていた。
 
 可愛いねって……私を優しく抱きしめてくれた彼の温もり。

 鈴の音のように涼やかな声だねって私の声にうっとり目を閉じた彼。

 私の心にはこんなにも彼への熱い思いが残っている。