深い事情を会社側は知らないけれど、私の経歴に全く職歴が無いのを見て、何となくそういう背景は察知しているのかもしれない。
 たまたま面接の時に私と同郷だと分かった大村さんが気に入ってくれて、かなりの異例な採用となった。

「君の力を必要してるのは堤くんのところだ。まあ、彼も忙しいからほとんど見よう見真似で習得してもらうしかないんですけどね」

「はあ…堤さんですか」

 私はその名前を聞いて、さらに不安がつのった。

 堤光一(つつみこういち)は、たった一人で膨大なデータの処理とその詳細研究に追われている超ハード人間。
 確か3つ年上の32歳だったと思う。
 自宅にいつ帰っているのかも分からないワーカホリックだ。
 この会社では私には良くわからない空中に飛んでいる粒子を計測する研究をしている。
 毎日外部の研究施設から送られてくるデータをきちんとした使えるものにしてプログラミングに乗せて操作する。
 何でこんな仕事があるのか私にはさっぱり分からなかったけど、ここは、ほとんど法人の研究所みたいな施設だというのはぼんやり理解している。