「住所どこ?」
「……」
結局、住所も全部聞かれ、カーナビにその住所を登録される。
「じゃ、行くよ」
そのままナビが開始され、静かに車は発進した。
抵抗するのも疲れ、私はそのまま体の力を抜いて背もたれにもたれかかった。
普段あまり口を開かない堤さんなのに、車内では静かになるのが気まずいのか色々他愛の無い事を話していた。
「車通勤されてたんですね」
私は今更な事を言った。
私より遅く出勤してきて、私より早く帰る事が無いから、堤さんの行動手段が何なのかすら知らなかった
あの職場だったら、電車を使った方が良さそうだけど、彼はほとんど真夜中に帰宅するから道路もすいていて車の方が早いんだと言った。
結局アパートまで送ってくれた彼は、私が倒れた原因も、車中で憂鬱そうな顔をしている理由にも触れず、そのまま帰っていった。
私が「何も聞かないで」というオーラを出していたのかもしれない。
正直送ってもらったのは助かったし、何も事情を聞かれなかったのもありがたかった。
良く分からないけど、彼の持つちょっと不器用な優しさが感じられた。
絶望的だった私の心に、ほんの少し暖かい温度が戻ったような気がした。