「両親は小さい頃に離婚していて。兄と私を必死で育ててくれた母も苦労のしすぎで、5年前に亡くなりました。だから……私には堤さんしかいないんです。家族みたいに大切に思える存在は」

「……そうですか。ご苦労されたんですね」

 余計な事を聞いてしまった気がした。
 鮎川さんのプライバシーを掘り起こしてしまったという罪悪感もあったし、彼女にとって光一さんは家族ほどの近い存在だという事を知ってしまったショックもあった。

 鮎川さんは口にダイレクトに出さなかったけれど、私と光一さんの関係を知っていて、それでもなお彼を言葉に出来ないほど慕っているというのを感じた。

 要するに……私が一番そうなって欲しくないなという展開になってしまった。
 私と同じか、それ以上深く光一さんを愛する女性がもう一人いるという事を……知ってしまった。

「光一さんって……愛情に飢えてるんじゃないのかなあ」

 久美との雑談タイム。
 彼女に光一さんの事を打ち明けてからというもの、何度か相談をするようになっていた。
 彼女の指摘は短くて的確だ。

「うん、そういう節はあるね」

 一見厳しく見える外見に反して、恋人にに対しては子供のように甘えたがりなのは感じていた。