月は縋るように血まみれの沖田の懐へと、自ら飛び込んだ。


大きな背中に手を回すと、じっとりと月の着物が赤く染まっていく。


「これで私も一緒です。何も心配することはありません。私も人斬りですから…。」


沖田だけでない。月だって同じだ。人を斬り血で赤く染まった。これからだって必要があれば斬ることになるだろう。


それに何の迷いもない…。


ただ互いの気持ちが離れてしまうのが、怖くなっただけ。


沖田も月が胸元から離れない様を見て、そっと腕が回された。


「そうだね。僕達は一緒だ。」


「沖田さん…。」


「喋らないで。それ以上言われたら、たまらなくなるから。」


沖田は苦笑いをしながら、月を優しく撫でた。


今はただ互いの体温を感じてたい……。


この先何があるかは分からないが、互いが無事ならばそれだけで構わない。


月には沖田しかいない。


沖田にも月しかいない。


互いの気持ちが交差しながらも、触れ合うことはない。


二人は明日が待ち受ける空を見上げた。


満天に輝く星空が広がる。


これから何があっても、前をむいて現実を受け入れていこう。


そう思っていると沖田が強く月を引き寄せた。まるで自分もと言わんばかりに、月はそれに応えるかのように抱きしめ返したのであった……。









殿内が殺された一件は周囲にも知られることになり、屯所は暗い影を落としていた。


芹沢は部下が殺されたと聞かされても、仕方があるまい、と言って身内の死を悼む気配もなければ、近藤達に問い詰め気配もない。


むしろ居ても居なくてもどうでもいいと言わんばかりだ。


だから暗い影は芹沢達ではなく近藤達の方であった。


そしてこれはまだ始まったばかりで、まだ人を仲間を殺さなければならないのだ。


一緒に上洛し同じ志を持っていた仲間だったはずが、今や敵となっているのだ。そのことが辛くてしかたがないのだ。


月と美月は夕膳の後片付けをしていた。


カチャカチャと食器の音が響く。


「月ちゃん それ手伝おうか?」


「美月さん……、ありがとう。」


美月は洗った食器を拭いていく。だが、どこか少し寂しそうに見えた。


「どうかしたんですか?」


「え?……ううん、なにも……。」


美月は小姓というだけで新撰組の内情も知らなければ、沖田が殿内を斬ったことも知らない。