バツが悪そうに顔を背ける沖田。


暗がりで分かりにくいが、沖田の顔や着物が返り血で派手に湿っていた。


「月ちゃん?」


何も言わない月が気になったのか、月に手を伸ばそうとするが、月は反射的にそれを避けてしまう。


「あっ……。」


「……僕が怖い?」


少し残念そうに苦笑いをしながら、一歩月から距離をおく沖田。


そんなことない……。


ただ、突然に起きたことだったから…。それに久しぶりに受けた感覚だったから、少し反応しただけだ。


沖田は沖田に変わりはない。


月はゆっくりと沖田に手を伸ばすと、指先で顔についた血を拭う。


よく見てみれば格好いい顔をしている。


月は指を止めることなく拭い続ける。


ゴシゴシ……。


だけど血は落ちてくれない。


ただ彼自身が汚れてしまったかのように、血はしつこくこびりついていた。



血の匂いがする……。



「おかしいな綺麗にならない。」


「もう綺麗にはならないよ。知ってるでしょ?」


沖田は月から離れ自分の手ぬぐいを川の水に浸し顔を洗う。


指の間からポタポタと血が混じった雫がこぼれ落ちては、川に流れて行った。


月は沖田の隣に座ると、沖田の手から手ぬぐいをとり優しく拭き取る。


「怖くないの?」


「沖田さんを怖いと思ったことはありません。沖田さんが私を救ってくれた日の夜も、こんな感じでした。」


あの時は沖田が月の盾となり、戦ってくれたのだ。その後もずっと助け合いながら、ここまで生き延びたのだ。


「……そうだね。僕はその時から君に救われてばかりだ。」


沖田の手が月の頬に触れる。それに反応するように身体がぴくりと動くが、沖田は離すことなく月の頬に触れていた。


ヒンヤリとした冷たい感触が、月の頬を包み込む。


「僕はこれからも、ああやって人を殺さないといけない。君がいつか離れてしまうのではないかと僕は怖い。」


まるですがるような目で月を見つめる。顔は綺麗になったが、その他は血で染まっている。


いつの日かと同じ光景。


二人の気持ちが一つに重なり合う。あの時のようにただ求め合うだけじゃない、目の前の現実を受け入れ、互いの運命に向かって支え合うのだ。


月を汚さないように、着物に血がつかないように、距離をとっていたのだろうが、その必要はない。


月もまた降ってきた血で反対側の肩が濡れていた。