女でないことに安心したが、こんな所で密会とは怪しい。また、沖田や新撰組を狙おうとする会津の連中か。
月は覗き見るようにして上を見上げる。
暗がりでよく見えないが、それは見覚えのある男であった。
局長芹沢鴨な側近である殿内だ。
会津での計画が蘇る。
新撰組は局長芹沢鴨とその一味の暗殺をしなければならないのだ。
慌てて上を見ると同時に、鮮血が降って来た。
「あがっ…!!沖……田っ……!!」
尚もあがらおうとする殿内に沖田は恐ろしくも冷酷に、容赦することなく殿内の身体を貫き、あがらいも意味を持たずに、殿内は散っていった。
沖田は殿内から刀を抜き、刀を振ると刀についた血が飛んだ。
静かな暗闇に凄然とした納刀の音が響く。
足元に転がる屍と血の海を見下ろす。
「総司。」
「呆気ないものですね。」
「ああ…。」
近藤は苦笑いをしながら、よくやったとぽんと頭に手をおいた。沖田は近藤の向かい微笑んだ。
仲間殺しという汚名をきたにしては冗談すぎる笑顔だった。
「さて、帰るか。」
「はい。あっ、近藤さんは先に帰ってて下さい。僕はもう少しこの辺りを回ってから帰ります。」
「何かあるのか?」
「いえ、人を殺めた夜ですし、夜風に当たってから帰りたいんです。」
「そうか。あまり遅くなるなよ。」
「はい。」
返事を聞いてから近藤は静かにその場から立ち去って行った。
近藤が行ってしまい元の静けさが戻る。
月は凍りついたようにその場から離れずにいた。
「三つ数えてあげる。」
「!」
渇いた冷たい声が聞こえる。
いつから気づいていたのか、それははっきりと月に告げられたものであった。
「出てこないのなら斬るよ。」
「!」
そう言われても身体が動こうとしない。いや、恐怖で動けないのだ。
カタカタと指先が震える。その間にも沖田は数をかぞえる。
「3、2、1。」
刀の柄に沖田の手がかかり、駆け降りてくる足音が聞こえる。
バッと振り返ると沖田と目が合う。
「つ、月ちゃん……?」
「………。」
月の姿に沖田は面をくらったようだ。さすがに誰かがいると分かっても、誰がいるとまではわからなかったようだ。
沖田は刀を納刀する。
「まさか、月ちゃんに見られてたとは思わなかった……。」

