二人の前には親代わりとして、会津藩主と桂が前に出ていた。


新郎新婦が杯を交わすまえに、親である者が先に杯を飲むのだ。


何の疑いもなく会津藩主はその杯を飲んだ。しかしその瞬間に容態は急変する。


「ゴホッ!ゴホッ!……ゲホッ!!」


「藩主様!?」


崩れ落ちそうになる藩主を慌てて受け止める桂。藩主の意識は朦朧としており、会場は騒然となる。


その機会を待っていたかのように、容保達が奇襲をかけてきた。


刀と刀がぶつかり合い人々は逃げ纏い、近くで血の飛沫が上がる。


「藩主様!!」


「姫様!!」


「早く藩主様達をお守りしろーー!!」


臣下や侍女達が戦の中、貴族達を守るようにして安全な場所へと逃げて行く。


だが、藩主の顔は酷く青ざめていた。彼はもう助からないだろう。


「さあ!姫様もこちらへ!」


桂が沖田から引き離すように、蛍を連れて行こうとする。


「沖田様!沖田様も、一緒に逃げて下さい!!」


蛍は桂の腕から逃れ、沖田にしがみつき逃がそうとする。


しかし、沖田は蛍に刀を突き付けた。


「!?」


「僕に触らないで下さい。これ以上貴女のお守りをするのも飽きたので、死にたくなければ、大人しく引き下がって下さい。」


その口元は笑っていない。まるで獲物を捕らえた目で蛍を見ていた。その冷酷さに背筋がゾッとする。


目の前にいるのは蛍が知っている沖田ではなかった。



沖田は近づいてきた敵を容赦なく切り捨てる。身体に返り血を浴びる。


「ほら、早く。」


沖田の目が蛍を射抜く。呆然と立ち尽くす蛍の腕を桂が取る。


「行きましょう!」


桂は一瞬沖田の方を見た。クーデターに参加していたのは予想外であったが、式が開始されてから月の姿はない。


上手く隠したのであろう。


桂は蛍を連れて逃げて行った。


それから沖田は戦場を駆けて行った。









長州や会津の者達を含め、容保はほとんどの兵士達を生け捕りに成功し、なおもあがらった者のみ戦死した。


そして彼らの思惑通りに、会津藩主は死亡し、容保がその座についた。藩主の死で妻達が自害するなど一時は騒然となったが、それも日を追うごとに収まりつつあり、今や平和な時となっていた。


ほとんどの者達が先代の藩主に疑惑を持ち合せていたので、兵士や臣下達の収集にもさほど時間はかからなかった。