「お断りいたします。」


「沖田殿……!」


「仮にも嫁にしようとした人なのに、自分で救えない人に協力する気はありません。」


「そんな……。」


「それに彼女は助けなくても、自分の足でちゃんと逃げますよ。それは桂殿もご存知ではありませんか?」


「……!」


得意げに笑いながら、沖田は出て行った。


それだけ沖田が月を信頼しているのだろう。月は男の影に隠れているような女ではないのだ。


改めて彼女が新撰組だったのだと思い知らされる。ならば、桂が月にできることは、一つしかない。


「今回だけですよ 沖田殿……。」


沖田にかけた疑いを今回だけ、見逃すこととした。


月を逃がすためにも、沖田に托すしかない。沖田が月を逃がすために蛍の部屋へ来たのなら、必ず何かをするはずだ。その作戦協力することにした。








いよいよ蛍と沖田の婚礼の時となった。会場には多くの者達が参列し、二人の門出を祝う。


上座の傍らには結婚を取り決めた張本人である会津藩主が座り、その隣にその妻、臣下達と位順に席に座っていく。


その配置と状況を確かめ、容保の部下が主の元へと走っていく。すでに準備は整った。あとは実行に移すだけだ。


沖田の耳にもそのことが入る。


沖田は月を救うために、部屋に彼女を呼んだ。


「お呼びでしょうか?」



ーードカッ!



「……!?」


部屋に入るなり、月は首後ろを刀の柄で殴られ、意識を失い畳の上に倒れてしまう。

「ごめん…!少しの間だけだから、ここで大人しくしておいて。」


沖田は罰が悪そうに、気絶してしまった月に言うと、月の身体を抱え上げ、押し入れへと隠した。


ここなら人に見つかることなく、月を安全に隠すことができる。


月との関係が深いものにならなかったことが、巧を成したようだ。


「沖田様、お迎えに上がりました。」


ちょうど良い時に、会場からの迎えが来た。もう一度、月を隠した押し入れを見てから、沖田は部屋から出て行った。








新郎新婦が揃い、結婚式が行われる。関係者が参列する間の道を、白い衣装に身を包んだ蛍と共に歩んで行く。


その裏では容保達が動いていた。会場の周りには警備隊が敷かれているが、騒ぎにならないように気絶させ、会場の周りを取り囲んだ。


祝福のお経が上がり、杯に酒が注がれる。