「それはそっくりあなたへ帰したいと思います。」


「……いいですよ。僕もちょうどお茶が飲みたかったですし。」


互いにニヤリと笑い、相手の目的を探るべく動きに出た。







話しは桂の部屋で行われる。周りにはいるはずの部下達の姿はなく、沖田と桂の二人だけとなる。


熱い茶の入った湯呑みを差し出される。


「時間がないので、単刀直入にお伺いしたいと思います。あそこで何をされようとしていたのですか?」


「彼女と逢引をしようかと思いまして。結婚前の男の楽しみですよ。」


「楽しみとは…上手く逃げましたね。私には他の目的があるように思えたのですが。その彼女というのは、蛍のことですか?それとも、私の妻となる月のことですか?」


「……そんなこと、いくら身内になる人とはいえ、言えませんよ。」


「身内ですか……、あなたの身内は長州でも会津でもなく、新撰組ではないのですか?」


晴れては蛍ではなく、月ではないか、と言っているのだ。


つまり、沖田は蛍を利用して長州の情報を得ようとしていると桂は考えていた。


「今日から長州も新撰組も僕の大切な身内になるのに、初日から疑いをかけられるとは、予想外のことでしたね。もしかして、月のことを気にしておられるのですか?」


「彼女のことは関係のないことだ。」


「あれ?それが一番気にしてたんじゃないんですか?あれだけ月さんに、言い寄っていたのに、フラれたのですから。」


「なぜ、あなたにそれが分かるのですか?」


「側にいたのですから、それくらい分かりますよ。彼女顔に出やすいですから。」


「なるほど…。」


飄々と興味なさ気に言うが、沖田と月は新撰組にいた時からの付き合いだ。互いに気づいていないだけで、想いあっているのかもしれない。


だとすれば、沖田の協力を借りて月を逃がせるかもしれない。


「沖田殿、長州や新撰組とは関係なしに、折り入って頼みたいことがある。」


「なんです?」


「もうご存知かもしれないが、月はもうすぐ私の側室とさせられる。その前になんとかして、彼女を逃がしたいのだが、協力をしてはもらえないだろうか?」


改まっての桂個人としての願い出であった。このままでは月は本当に側室にさせられてしまう。月と桂の関係を知っている沖田なら、月を守れるかもしれないと考えたからだった。


しかし、沖田は容赦なく却下してしまう。