戸惑っているのか、月からの返事はない。


「……調べてみたのだが、お前は元々桂殿の嫁になる予定だったようだな?」


「!」


「その後は行方をくらまし、ここへ流れついたとか……。お前ほど気立てのいい娘がよく桂殿を跳ね退けたものだ。好いている人でもいない限り出来ぬことだけどね?」


探るような目で月を見る蛍。だが、月はそれに答えることは出来ない。


「見知らぬ者と会って、いきなり側室と言われましても、簡単にお受けできる話しではありませんので。」


「まったく、素直じゃないわね…。でも、お前が何処にいたのかとか、その経緯が伏せられている以上は探りは入れられないわね。だけどまたこうして、桂殿と会えた。桂殿と結ばれるのが自分の運命だと受け入れることね。」


「…………。」


「桂殿もあれだけ追っていた逃げた小鳥が戻って来たというのに、また離そうとするなんて変な話しだわ。」


「え……?」


「桂殿はお前を探すために、一人で必死になって探しておられたのよ。」


「………。」


そんな話し一言も桂は言わなかった。結婚までの経緯など、月が不利になる情報を皆伏せたということは、桂の好意は本物であるということだ。


部屋の外でそれを沖田が聞いていた。


そこへ桂がやって来る。


「おやおや、これは珍しいお客様ですね?」


振り返ると沖田を見て微笑む桂の姿があった。


「婚礼を前に女性の部屋に聞き耳を立てるとは悪趣味だと思いますが?」


「用があったから来ただけです。別にやましいことではありません。」


「結婚前に互いの面会は禁じられているはずです。いったいどんな用があるというのでしょうか?」


「あなたには関係のないことです。黙っていて下さい。」


「と、言われましてもね……。こんな所で見てしまっては、臣下として黙っているわけにはいかないのですよ。」


「じゃあ、どうするっていうんです?まさか、いまさら婚礼を白紙にするなんて、言うんですか?」


あくまで飄々と動揺のかけらも見せない沖田。妻となる蛍に用があるのなら、ここまで余裕ぶったりはしないだろう。


つまり、沖田は別の目的でここへ来たこということだ。


「どうやらあなたとは一度、話し合う必要がありますね。よければこの後、お茶とかいかがですか?」


「もうすぐ式が始まるというのに、新郎を捕まえてお茶とは、余裕なのですね。」