「そう…、ならいいや。」


「月が気になるのですか?」


沖田を探るように見つめる侍女。だが、沖田は顔色一つ変える様子もない。


「そんなわけないじゃないですか。近頃顔を見せないので、心配になっただけです。蛍と一緒なら安心しました。」


にこりと笑う沖田。それに侍女達も流されてしまう。


「そうですか、沖田様は優しいのですね。」


「姫様がうらやましいです。」


うっとりとした表情で沖田を見上げる。だが、沖田はそんなものには目もくれない。


全然興味がないと言わんばかりだ。


「君達も早く戻ったら?花嫁の方が、大変なんじゃなかったんですか?」


「あ、そうですね。それでは失礼いたします。」


侍女達はニコニコしながら出て行く。下心があることは見え見えだ。


主の夫に惚れてしまうとは、なんだか侍女の立場も憐れに思えてくるが、沖田はそれさえも思うことはなかった。


ただ、あれからというもの、月の顔が頭か離れない。



悲しみと悔しさに苦痛ともいえない顔で、涙を流していた。


今まで月はどんなに辛い時も涙を見せることはなかった。


月のあんな顔は始めて見た。


自分の言葉でそれだけ傷つけたということだ。


沖田も本気で月が桂と交わりを持ったとは思っていなかった。ただ、自分以外の男が月と仲良くしようとしているのが気にくわなかっただけ。


我ながら子供じみたやり方だった。


「……に、しても鈍いよね。どうしたら、気づいてもらえるのかな。」


あれだけのことをしておいて、沖田が自分に好意を持っていないと考える月が分からない。むしろ、月が思っているのは友人の好きの方かもしれない。


とりあえずは月の縁談を破談にした方がいいだろう。


沖田は蛍の部屋へと向かった。








蛍の部屋では沖田よりも早くに、桂が破談を持ち掛けていた。しかし、月を桂の嫁にするとの一点張りであった。


すでに話しは長州の方にも届けられているらしく、破談にするのは困難を極めていた。


なんとか月を蛍から引き離し、ここから逃がさなければならない。だが、逃がそうにも、協力してくれる者もいなければ時間もない。


刻々と時間が過ぎて行く……。



沖田は蛍の部屋の前まで来ると足を止めた。中で蛍と月が話しているのだ。


「式が終わったら、お前は着物を着替え、桂様の使節団と共に長州へ来い。」