月はそっと桂から身体を離した。


「やめて下さい。貴方の目的が違ったとしても、私は貴方のものにはなりませんから。」


「月……!」


「その名を呼ばないで下さい。私は貴方に決して惑わされることはありません。例え、結婚したとしても、貴方は私の心を手に入れることは出来ない。」


真っすぐに桂の目を見て答える月。その目に曇りはなく、決して揺らぐことのない意思を映しだしていた。


「これにて失礼致します。」


軽く桂に頭を下げ、襖に手をかける。


「なら……、どうすればいいのですか?私はどうしたら、貴女の心を手に入れられるのですか!?」


「……必死になればなるほど……、求めれば求めるほど……、私が貴方に靡くことはないでしょう。」


それだけを言い残し、月は振り返ることなく出て行った。


強制的に結婚をしたとしても、おそらく月は桂に心を開くことなく、その身を預けることもしないであろう。


いくら望んでも絶対に実らぬ恋……。


桂は始めてこんなに人を好きになった。幾松の時も確かに好きであったが、幾松は年上であったため、恋愛対象にはならなかったのだ。


大好きな者が側にいても、悲しい顔をさせるだけなら、そんな結婚はしない方がいい。


帰ったらまた幾松が馬鹿な男だと怒るであろうが、そんなことはどうでもいい。月を悲しませないのであれば、結婚を破談にさせることもできる。


桂は覚悟を決め、結婚を破談にすることに決めた。






そして翌朝、会津は運命の日を迎える……。



この日は蛍と沖田の結婚式の準備が行われ、会津藩邸は紅白の一色に染まる。


誰もが喜び合い祝福し逢い、順風満帆に思えた。


しかし、裏では恐ろしい計画がなされていた。


会津藩主の息子は、敵である長州と縁を切るために、それに協力する父を暗殺する。


それに伴い、沖田は新撰組へと帰還し、局長芹沢、他仲間を闇討ちにする計画が立てられていた。


この計画は容保側の人間と新撰組、それから沖田と月しか知らない。決して失敗は許されない事であった。


だが、沖田と月はあれから接触がない。


沖田は部屋で侍女達に手伝ってもらいながら、結婚の準備をしていた。


「……ありがとう。」


「いえ、きつい所とかございませんか?」


「ないよ。それよりも月さんは何処ですか?」


「月なら蛍様の手伝いをしております。」