「悪いが、そういう感情は、俺達は持ち合わてねぇんだ。用がないなら、さっさと出て行って下さい。」


騒ぎとは全く関係なしと言わんばかりに言う土方。周りの者達もそれに同意しているようだ。これではどうしようもない。


「身内にこうも冷たいとはね……。分かった、我々は引き上げるとするよ。会津藩主にも報告しないといけないんでね。」


それだけを言って桂達は出て行った。


「……って、どうすんだよ土方さん!?月が逃げたってバレたらまずいんじゃねぇか!?」


「その心配はありません。彼女は隊士ではありませんから、何とでもごまかせますよ。」


「すでに打つ手は考えてある。心配すんな……。」


副長の土方がそう言うんなら、それを信じるしかない。


だがまだ、緊張の糸は解れぬままだった……。






一方、侍女として会津藩邸に置かれた月は、主となる蛍の部屋へと案内されていた。


一度きりではあるが、暗殺しかけた時に顔を見られているはずだ。看板されやしないか、不安でならない。


「お嬢様、新しい使用人を用意して参りました。」


「入ってちょうだい。」


襖が開けられ中には、身を着飾った美しい蛍がいた。


同じ女ではあるが、見惚れてしまいそうになってしまう。


「その者は?」


不思議そうに月を見る蛍。


「ご主人様がご用意された侍女でございます。名前を言いなさい。」


「つ、月と申します…。」


蛍に頭を下げる月。


「月か……、そなた何処かであったことはないか?」


「い、いえ……。」


蛍の探るような視線を避け、目線を逸らす月。


「……分かった。私の世話はお前に頼むとしよう。そうだ、これから沖田様に会いに行くのだ。お前もついて来るがいい。」


「はい……。」


看板されなかったのは良かったが、ここには沖田もいるのだ。


そして、この蛍の夫となり、蛍は彼の妻となるのだ。


美しく着飾った蛍の背を見つめながら、その立場の差を見せつけられたような気がした。






「沖田様、蛍です。」


ついでに言っておけば、蛍は沖田のことを『沖田様』と呼んでいた。夫婦になる前だから、当然と言えば当然かもしれないが、それがせめてもの救いのように感じられた。


「入って下さい。」


部屋の中から沖田の声が聞こえる。久しぶりに聞く声だが、まさかこんな形で再会するとは思ってもみかった。