月はそれを追うようにして、表へと出た。すでに、外からは沖田の姿は見えない。


物陰からその輿を見つめる月。


それに応じるかのように、輿の中の沖田が簾の合間から、月の姿を探し辺りを見ますが、月の姿は何処にもない。


諦めかけた時物陰の片隅に、沖田を見つめる月の姿があった。


「……!」


思わず飛び出しそうになる沖田だが、このまま行くわけにはいかず、ただ月の今にも泣き出しそうな顔を見つめるしか出来なかった。


何も言えぬまま、沖田の乗せた輿は会津藩邸へ向けて、出立して行った。


月は輿が見えなくなるまで、それを見送っていた。


いつの間にか、冷たい雨が降り出していた…………。









沖田が行ってから数日後、沖田と同じような大量の荷物が、月の元に届けられた。ついに月を迎えに来た使節団が到着したのだ。


使節団は直接、屯所の方へと出向いて来た。


いつもと変わらないように、屯所内の雑用をしていた月のもとに、井上がやって来る。


「月ちゃん。」


「…………。」


「使節団が到着したよ。君を迎えに、あちらから出向いたらしい……。」


洗濯をしていた月の手が一瞬止まるが、またすぐに洗い始める。


「……そうですか。」


「先方様が会いたがっている。準備を整えて広間へ来なさい。」


それだけを言って、井上はその場を立ち去った。


いよいよ月の番が来たのだ。故郷の者と言えど、彼らは新撰組の敵だ。そのことが、月に重くのしかかってくる。


月は洗濯物を片付けると、広間へと向かった。









広間へ向かうと、楽しげな笑い声が聞こえてくる。どうやら長州の者達のようだ。


この中に敵でありながら月の夫となる者がいるのだ。


そう思うとなかなか、障子を開けることが出来ない。自分が決めたこととはいえ、やはり抵抗があるというものだ。


月が部屋へ入るのを躊躇していると、突然目の前の障子が開けられ、土方が顔を出した。


「お前こんな所で何やってんだ?!」


土方は中には分からないよう障子を閉めた。


「それにその格好はどうした?!着物はちゃんと用意していただろうが……!」


「あ……、えっと…その……。」


「なんだ?やっぱり、結婚が嫌になっちまったか?」


「そ、そうじゃありません!私、着替えてきます!」


土方の視線から逃れるように、月は走って行った。