何を納得したのか、沖田はくるりと踵を返して行こうとする。
「ちょ、ちょっと待って下さい!!」
がしっと沖田の腕を掴んで止める月。
「今、なんかとんでもないこと言いませんでしたか?」
「別に言ってないよ?ただ、女湯の残り湯使うって言っただけだよ?」
にこりと笑う沖田だが、月がそれを聞き逃すことはなかった。
「しっかりととんでもないことを言ってるんじゃないですかーー!! なんでよりによって女湯なんですか!?下手したら捕まりますよ!?」
「大丈夫だよ、今は昼間で誰もいないし。それに女湯の方が綺麗そうだしね。そっちを使っても文句言う人はいないでしょ。」
「そういう問題ですかーーー!!まったくいやらしいにも程があります!沖田さんがそんな人だったなんて見損ないました!!」
顔を真っ赤にしながら、月はぶつぶつと文句を言いながら洗濯を始める。
その横顔を眺めながら沖田はくすりと笑った。
「……嘘だよ。そんなこと僕がするわけないでしょ?」
井戸にもたれるようにして立つ沖田。
「嘘でもそんな立ちの悪いこと許せませんよ!」
「ごめん、ごめん。あんまり君がムキになるからつい、からかいたくなったんだ。」
あんな冗談とも言えないことが、からかいと言えるのだろうか。
前みたいな刺々しさが消えたとはいえ、こういった冗談を言うようになるとは…。
いつの間にか、洗濯をしていた月の手が止まっていた。
「だから許してよ、ね 月ちゃん。」
そう言われてしまっては、拒む理由などなくなる。
こういう風にする沖田はズルイと思う。
「月ちゃん?」
「………今回だけですよ?」
ようやく顔を上げて答える月。沖田も安心したようににこりと微笑む。
「うん。……ってなわけで、ここで脱ぐね。」
「わーーー!だから、なんでそうなるんですか!?男湯に行けばいいでしょ!?」
「月ちゃん、それは酷ってものだよ?一生懸命動いて汗かいたのに、綺麗な水で汗も流せないなんて、そっちの方が酷い話しなんじゃないかな?」
「……わ、分かりましたよ!少しだけですよ……!」
観念してたじろぎながらも許可を出す月。
「ありがとう。」
返事するやいなら、着物を脱ぐ沖田。
そのまま冷たい水を浴びる。
いつも思っていたのだが、男になる沖田の姿はいつもより逞しくて格好いい。

