妻をそっとなだめる高杉。だが、そう簡単に押さえられる不安ではない。


「聞きました。今は新撰組にいると…。もしかして、また例の件を持ち出す気でしょうか?」


「だろうな…。蛍を懐柔するならそれが一番手っ取り早い。それなら無下な扱いは受けていないはずだ。心配するな。」


「蛍のことは信じております。ですが、新撰組は荒れ狂れ者達が暮らす男所帯。そんな所で、それなりの待遇が受けられるとは思いません。」


「その件に関しては会津に話しを持ち掛けている。すぐに返事が来るはずだ。」


新撰組の男所帯での件に関しては、会津も一応反応を示していたから、それなりの返事が来るはずだ。


年のため会津には蛍の身に何かあった場合、攻撃すると告げてある。


今はどちらも兵を動かせない状態。長州は薩摩や幕府を、会津は他藩を警戒している。こちらが攻撃せね限りは大丈夫だろう。


「時に池田屋で藩士達を殺害の件に関しての反発が大きい。奴らの仇を取らなければ、ややこしいことになる。」


「どうされるのですか?」


「まずは奴らを静めるのが先だ。先走って何かをやりかねないからな。殺害した者達の人相描きを今描かせている。」


「人相描き…ですか?」


「ああ、あれなら奴らも静まるはずだ。」


「ですが、もしそれが知れたら…大変なことになるのでは。」


「大丈夫だ。会津や新撰組はそこまで馬鹿じゃない。ただ、それだけで納まればの話しだけどな。」


収集につけるにあたり手を打つが、それだけで騒ぎが収まるかは不明であった。


「とにかく向こうに送る人間を用意しておけ。勇に見つからぬように…、それと、これを向こうに送る荷物に入れておいてくれ。」


「……!」


高杉が妻の前に差し出したのは、懐に忍ばす短刀であった。


「親としては助けてやりたいが、あいつはこの長州の姫だ。その責任は免れない。もし、万が一があった時にはこれで…。」


その意味を美智子は悟った。


もしもの時は相手からやられる前にこれで自決しろというのだ。


「万が一にならぬように、なんとかしてみせる。だが、これだけの者達がいるのだ、必ず助けると約束は出来ん。」


「………。」


「お前には酷なことだが、頼む…。」


高杉は妻に頭を深々と下げた。


誰が好きこのんで娘に自決を進めるだろうか、だがこれも藩を納める者の宿命である。