流れ落ちてくる斎藤の前髪が、優しく月の頬をくすぐる。


月は慌てて身体を離そうとするが、腰に回されていた手が、グッと引き寄せ、口づけられる。


「ん……。」


斎藤の下が侵入してきて、互いの舌が絡み合う。


甘い感覚と濃厚さが月を支配していく。だが、その心の中では何度も沖田の顔が浮かんでは消えて行った。


まるで、もう二度沖田には触れられない。そんなどうしようもない感覚が心を支配していく。


口づけている間も、ポロポロと涙が落ちては、斎藤の着物を濡らしていった。


斎藤は静かに唇を離し、指先で月の涙を拭う。


「悪かった。」


「………。」


それだけを言って、今度こそ斎藤は部屋を出て行った。


斎藤がいなくなった部屋で、一人残される。


そっと唇に触れると、僅かに湿っていた。



二度目の接吻は甘くて、少ししょっぱかった……。








翌朝、結局一睡も出来ずに夜を明かす。


互いに昨日のことなどなかったかのように、顔を合わせる。


花街を離れる前に最後の情報収集をし、斎藤と一緒に帰還する。


島田と山崎はまだ、芹沢達の動向を探るようだ。








山崎達より一足先に屯所へ帰還した二人は、土方や近藤に詳細を報告した。前もって報告した分もあったので、説明にはそう時間がかからなかった。


「……分かった。ご苦労だったな。」


「いえ、月の協力があってこそです。」


「!」


これまた意外な謙遜だと、土方と近藤が驚く。本人は自覚がないようだ。


「アハハハ!そうか、月さんもご苦労だったな。ゆっくり休むといい。」


ニコニコしながら労う近藤。


それからしばらくして、部屋へ戻る途中に、平助達がやって来る。


「月ー!」


「平助君。」


「長い間、任務お疲れ~!何にもなかったか?」


「うん、特に変わったことはなかったよ。」


「斎藤とかに何かされなかったか?」


「!」


永倉の言葉に一瞬、頭が真っ白になるが、すぐに何でもないように言葉を繋ぐ。


「は、はい。皆さんとても優しくして下さいましたし、危険なことは何も。」


「ま、女に刀を持ち出させるような奴じゃないしな。」


「無事でなによりだ。」


原田がポンと優しく月の頭に手を置いた。


「おかえり。」


「ただいま。」


「うわー!左之さんだけズリーー!!」