こうして、月は大人の階段を上るために、斎藤から指南されることとなった。
部屋の灯籠の明かりがふっと吹き消され、辺りは暗闇に閉ざされる。
わずかに窓から差し込む明かりのみが、部屋の中の様子を分からせてくれる。
斎藤がゆっくりと、こちらに歩み寄ってくる。
手が伸ばされ頬に触れる。それに反応してビクッと身体を上がらせ、僅かに後ろににじり下がった。
「月…。」
「……!」
腕を掴まれ、スッと月の腰に優しく手を回して、月を抱き寄せた。
こんなに優しく、取り扱われたのは久しぶりだ。
何だろうかこの安定した安心感と、甘い感覚。
以前にもこんなことがあった。
そう沖田に初めて屯所で抱きしめられた時と同じ感覚だ。
抱き寄せられた胸板が熱い、互いに密着していて心臓の鼓動が聞こえてくる。
斎藤の顔を見上げると、とても綺麗な顔をしていた。
それに気づいたのか、斎藤は優しく月を見えると静かに言った。
「俺に口づけてみろ。」
「え…?」
「そのためにしているんだろ。早くせねば、夜が明けてしまう。」
斎藤が静かに目を閉じた。
夜が明けるには早すぎるが、こんなところでやめるわけにもいかない。
月は意を決して斎藤の頬に手を添える。
目を閉じて、互いの顔を寄せ、吐息がかかるところまで近づけるが、
ーー僕のお嫁さんになる人だよ。美人でしょ。
「!!」
そう言ってけたけたと笑う沖田の声が聞こえ、斎藤から離れた。
辺りを見回すが声どころか沖田の姿もない。
「どうした。」
「………。」
どうしてこんな時に……。
あんな記憶を呼び起こさせたのだろう。
できない。
沖田以外の人となんて、仮でもできない!
月は唇を噛み締め、着物の裾を握ると、溢れ出た涙がポタポタとこぼれ落ちた。
「できません…!私、できません。」
嗚咽交じりながら絞り出すような声で、そう答えた。
「それが、あんたの答えだ。これで、どうすべきかはっきり分かっただろ。」
「…………。」
「俺は島田達と寝る。あんたも早めに休め。」
そう言ってスッと立ち上がる。
「月。」
「………っ!」
斎藤の方を見たと同時に、後頭部に手が添えられ、吸い込まれるように、その唇に生温かい感覚がそっと触れた。

