そう思うと口が動いていた。
「……その方に想いを告げたことはありますか?」
「ああ。」
「その時、どんな気持ちで想いを告げたんですか?」
「どんな気持ちでもない。ただ、愛してるとそう告げただけだ。」
「……その方はなんて言ったんですか?」
「俺のことを愛してると言ってくれた。」
流石、経験があるだけに落ち着いている。だが淡々に答える斎藤だが、何処か寂しげにも見えた。
「その方は今?」
「死んだ。」
「え?」
「俺がこの手で殺した。」
あっさりと言う斎藤に、息を飲む月。
もうなんて言ったらいいのか、言葉がみつからなかった。
それに付け加えるように斎藤が言った。
「数年前、旗本の命令で彼女の家に行った。試合形式ではあったが、俺の藩では女が刀を扱うことは許されなかった。俺は彼女に想いを告げ、彼女も答えたが、俺はその女を斬り殺したのだ。……それが、俺が脱藩をした理由でもあり、初めて人を殺した記憶でもある。」
以前に聞いたことがある。斎藤はその時の命令を実践したにも関わらず、罪に問われ脱藩を余儀なくされたのだ。
愛する者をその手で斬り殺し、藩を追われ、どれだけの辛い記憶を背負ってきたのか、図り知れない。
ただ、その時のことがあって、今の斎藤があるのだと思う。
「だから、武士である形を追い求めていたんですか?」
「?」
「原田さん達から聞きました。それで【試衛舘】へ来られたんですよね?」
「そうだ。そこで土方さんに出会い、武士である形を見つけたのだ。土方さんこそ誠の武士に相応しい方だ。俺はあの方の力になれるよう、精進して行きたいのだが。」
土方の話しになると斎藤は嬉しそうに笑う。
本当に土方や新撰組が好きなのだと思う。
愛する者を失った変わりに斎藤は、大切な人と仲間を得たのだ。彼の人生はこれからかもしれない。
「私も斎藤さんのように思えたらいいです。」
「なにを言っている。あんたの場合は生きているだろ?」
「沖田さんとは、もうそんな関係ではありませんから。」
「そうなのか?ってきり、そういう関係だと思っていたが。」
「もう終わったんです…。私は完全にフラれてしまいましたから。今頃、天神さんを囲んで遊んでるんじゃないかな…。」
そう自分で言うだけでも涙が溢れてきてしまう。

