「いつまでぼーと立ってるんですか!!さっさと行きますよ!!」


「お、おい!」


「いってらっしゃい。」


月は振り返ることなく、任務へと出て行った。



これから沖田は、今まで自分に向けたことを、いやそれ以上のことを他の女にするのだ。


それがとても辛くて悲しくて、止める斎藤の言葉にも耳を貸さずに、ずんずんと歩いて行った。








一方、月と斎藤が出て行った屯所では、世にも珍しいものを見たと言わんばかりに、その背を見送っていた。


「やっぱ、女の子の前ではまずかったか…?」


「まずいどこじゃねぇし。完璧キレられてるよ。」


「でもまあ、斎藤もついてんだし大丈夫だろ。」


「どうかな。一君は月ちゃんの師匠だし、二人きりになったりしたらまずいんじゃないかな?」


「ああー、それ分かるかも…。今日の月は一段と可愛かったもんな。」


「斎藤はそんなことする奴じゃねぇよ。お前ら遊郭に行くんだったら、さっさと行って来い。」


「あれ?土方さんも行くんじゃないんですか?」


「行かねぇよ。」


つまんないのとフイッと頭の上で腕を組んでそっぽを向く沖田。


「そういやー、左之お前は今日は誰にすんだ?この間の姐ちゃんか?」


「左之さんモテるもんなー!俺はこの間のにしよっと!総司は?」


「僕は天神(最高級遊女)にしようかな?」


「高値狙いだな。銭が無くなっても知らねぇぞ?」


「なに言ってるの。今日は新八さんのおごりでしょ?」


「はっ!?」


「そうだな。今日は新八のおごりってことで、しっかりと飲ませてもらうかな。」


ニヤニヤと笑いながら、戸惑う永倉の肩に手を回す原田。


「よ!新八さん太っ腹!」


「あんま飲み過ぎんじゃねぇぞ!」


土方の忠告を方耳で聞きながら、楽しげに四人は去って行った。









一方、月達は目的地である花街にたどり着いていた。


もちろん部屋には、恋人同士ということで斎藤も一緒である。


外では山崎、島田が見張っているようだ。


夜になるにつれて、花街は活気づいて来る。芹沢はこの奥の座敷をいつも使っているらしいが、まだ来ていないようだ。


「俺は外を見てくる。お前は少し休んでいろ。」


「はい。」


部屋の襖がパタリと閉められる。


窓の外を見ると、周りの店先の提灯がほんのりと明かりを燈していた。