それから毎日私は木下君の彼女を演じ続けた。
美紀も本当のことに気づいてない様子で祝福の言葉を私に向けてきた。
「おめでとう!!木下君って結構顔かっこいいよね♪でも優しい感じするし…とにかく!茉莉亜が幸せならあたしもちょー幸せだから!!!」
「ありがとう」
登下校も木下君と一緒。
いつも隣にいた先生はどこにもいない。
他愛もない話で盛り上がった先生との登下校とは違って
私と木下君の間には沈黙の空間が続く。
まだ私が逃げ出すかもしれないと思っているらしく
私の手をしっかりと握って離さない木下君は
話をしようという雰囲気も出さず、ただただ前を見据えて歩いていた。
私も私で
木下君と二人きりの時は偽りの自分をはずす。
だから話題とかもぽんぽんと出てこないんだと思う。
「茉莉亜…。俺のこと好き?」
ふいに木下君がそんなこと聞いてきた。
私は感情のこもっていない声で
「うん」とだけ。
「ちゃんと好きって言葉ほしい」
握る手に力が入る。
「…言葉がなきゃ伝わらないの?」
「そうだね。ごめん茉莉亜」
私は一度も木下君に"好き"と言わず逃げてきた。
この言葉だけは、
言っちゃいけない気がして…。

