なんで俺じゃあかんねん

「坂井くん、行こう?」

「え・・・。」

雅さんは、俺を連れ出すように腕をひいた。

「あ・・・ハル!」

葵の声が聞こえた気がする。

でも俺は、振り返ることはできなかった。

あの場から連れ出してほしかった。

自分では動けなかったから。

さっきの葵の様子を思い出しながら、雅さんに腕をひかれるままに足を動かす。

ダンスに誘っておきながら、雅さんはグラウンドには向かわなかった。

向かっているのは、いつもの音楽室。

俺もなんとなくそれはわかっていたから、特に追及はしない。

彼女はただ、体育館と同じく俺を連れ出してくれただけ。

その優しさにまた助けられた。

音楽室で、いつものように雅さんはピアノの前に座る。

俺もいつもの窓枠に体をあずける。

ふとグラウンドを見ると、ダンスがはじまっていた。

こっちにまで音楽が聞こえてくる。