コロコロした声、墨を流したような黒髪の彼女は、そうして屈託なく笑った。

 そのガキじみた笑み、泣きぼくろには、見覚えがあった。

「お前、まゆみか?」

「うんそう! 私。元気してた?」

「まあ、な」

 高校時代の知人のそばには、甘い金木犀が咲いている。

 が……例の香りは、懐かしい旧友でも金木犀からでもなく、やはり坂の上から。

「あがってってよ。久しぶりにお茶とかどう?」

 この時思った。

「……ああ。いただくよ」

 俺は、たぶんまた、この坂を登るだろう。

 懐かしい彼女に逢うためではなく、もう一度。