ん、と短い彼の返事を背中に聞きつつ、キッチンに立つ。

そしてコーヒーを注いだ私は……

「あ、んねぇ」

「なに?」

「コーヒーって覗くと顔映るわよねぇ。黒い鏡みたい。……ここに太陽ぶつけたら、どうなると思う?」

「そりゃ……」

と、私に振り返った彼は、けれど数秒悩ましげに首を傾げて、傾げて、固まった。

「そりゃ……太陽は360度同心円状に光を放射してる」

「もうその話は終わりましたから」

彼に、はい、とコーヒーを渡す。

黒い液体の表面を見つめて、そこに映る自分を観察して、

「太陽は」

「んぁ、もういいよ。アナタを観察してるほうがおもしろいから」

ぽつりと言おうとしたのを、笑って遮ってやった。

ソファーに座って、カップに口をつける。

「ぎゃっ」

「なに、どしたの?」

ついあげてしまった悲鳴に、私は涙を隠せなかった。

「じたやけろしら」

「……猫舌なんだね」

「あちひ~……」

見れば、黒い鏡に映る私は、涙目であっかんべぇをしていたのだった。