そして何事もなかったかのように、俺の前から立ち去った佐原先輩だった。
「…………怖っ」
佐原先輩と話すのは、試合前の緊張以上に怖さがあった。小さく深呼吸をすると、いつの間にか隣にイチがいた。
「お前は佐原先輩と話せたのかよ!」
「話しかけられた」
「何て?」
「お前がムカつく、嫌いだって」
「怖ぇ!」
佐原先輩の表情を想像したのだろう。イチの顔色は悪くなっていた。
「その顔じゃ明日の試合は無理だな」
「アホか!俺は熱が出ても嵐になっても試合に出るぜ!」
イチが回復したところで返事はしない。俺は再び荷物運びに専念した。
嫌い、か。
別に好かれたいわけじゃねぇけど、やっぱり軽いショックはあるかも。
嫌いって言ったのが心さんだったら、きっと相当なショックを……って、こんな時にまで心さんのこと考えてる俺って重症。


