自分の試合になるまで、客席で次に戦う相手の様子を見ることになった。
「うひゃ~、上から見るのって違うな」
体育館内に竹刀が交わる音が響く。選手達の全身から響く声もぶつかり合う。この世界が独特で、中学の時に剣道に惹かれたのを覚えている。
対戦相手を分析する。俊敏な動き、竹刀裁きも思っていたよりも速い。
少しだけ、自分の体が固まっているのがわかった。不安、その言葉が脳裏に焼き付く。
「中学の時から、お前は緊張するとすっげぇ怖い顔になるよな?」
中学からの付き合いのイチは、俺の緊張した時の変化がわかるようになったらしい。
「いや、怖いのは元から?」
「黙って試合見ろ」
怖いって言われたことは山ほどある。このでけぇ身長で目つきも悪いからだと。そんなの俺に言われてもな。
それも、俺が剣道を始めた理由にあるのかもしれない。だって防具で顔を隠せる。一時的にだけど。


