「特に、お前」
至近距離で指を指された俺。イチはそそくさと武道館へ走って行きやがった。あんの、薄情者め。
「場所をわきまえろ」
「はい?」
「吉野に叫んでただろ」
……あ、さっきの。
「丸聞こえだったっつの」
「す、すいませ……」
「そういうの、ウザいから」
そんなこと言われても、俺だって、一生懸命にアタックしてるんすけど。それとも……
「あ、あの!」
「あ?」
「……心さんのこと、好きなんすか?」
思わず、佐原先輩を引き留めて聞いてしまった。
「だったら何?」
「えっ、マジっすか!?」
びっくりし過ぎて持っていたタオルを落としてしまった。
「おら、落としたぞ」
スッと拾ってくれたタオルを、俺は小さく頭を下げて受け取った。それを合図に、佐原先輩は武道館へ歩いていく。
嘘だろ。佐原先輩が本当のライバルかよ。ダメだ、なんでこんなに敵がいんだよ。
「バーカ」
すると、佐原先輩が振り返った。
「吉野のことは男友達だ」
あの、心さんは女っすけど?
「好きな奴はいねぇ。剣道で十分」


