「チア部も練習終わったみたいだな」
イチが首を伸ばしてグラウンドの隅を見る。ちらほらカバンはあるが、もう終わっているようだ。
「だからさーあたしには無理だって!」
そう思っていた時、声が聞こえた。この声は間違いなく心さんの声だ。
「隠れろ、イチ」
イチの襟元を引っ張って、近くにあった太い柱の後ろに隠れた。
「おいおい、何だよ急に~」
「心さんの声がしたんだよ。だから……」
「あたしがお菓子苦手なの知ってるだろー?」
遮られて、再び心さんの声が耳に入った。今度はイチも聞こえた様子。俺の目を見てなるほど、と頷いた。
「ほら、こういうのは愛が大事なの!チョコの味よりもハートよ!」
一緒にいる先輩が心さんの肩をたたきながら言う。そう、やはり話題は明日のバレンタインのこと。
「いっぱい本読んで勉強してたじゃない!」
「そ、それはそうだけど……」
俺達は身を潜めて心さん達を見ている。心さんは、戸惑った様子。
「西川くん、モテんの知ってるでしょ?」
「そりゃー知ってるけど」
「だからこそ、今がチャンスじゃん!」


