「あれは柚希がまだ小学二年生ぐらいだった時のことよ」
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「あら、柚希ちゃん。
久しぶりね。元気にしてた?」
ちょうど学校帰りだった柚希を見かけた私は、笑顔で声をかけた。
けど小学校に入学した時の柚希と比べてずいぶん暗く、やせ細っていた。
「覚えてる?私のこと」
「・・・ゆりおばさん」
「うん、正解!」
この時の柚希は私のことをゆりおばさんと呼んでいた。
「どうしたの、柚希ちゃん?
どこか調子悪いの?
元気がないけど・・・」
「・・・・た、」
「た?」
「・・・なんでもない。
大丈夫だよ」
そう言って柚希はうつむいて帰って行ったのだ。
最近柚希のお父さんが事故で亡くなって、そのせいで元気がないのかもしれない。
そう思っていた。
けど、今思えばあれは「助けて」と言おうとしたんではないかと酷く後悔している。
それから何度か学校帰りに柚希を見かけることがあった。
けど日に日に彼女はもっと痩せていって、それを見かねて
「大丈夫?」
と声をかけると、柚希はその瞬間倒れてしまった。
急いで病院に運ぶと、先生から衝撃的なことを言われた。
「お嬢さんの身体にはあちこち痣がありました。
もしかしたら体罰をされている可能性があります」
「うそ・・・」
私は驚愕した。
誰に体罰されているかなんて、一人しか思いつかなかった。
それが柚希のお母さん。
私は柚希が退院して少し経ったある休みの日に様子を見に行くことにした。
「姉さん、私。
小百合だけど・・・」
アパートの扉をノックする。
しかし返事はなかった。
留守かなと思ったが、中から
「う・・・ううっ・・・」
という苦しそうな声がかすかに聞こえた。
私は急いで扉を開けて中に入ろうとしたが、カギがあいていなかった。
「どうしよう・・・!
・・・大家さん!」
大家さんに合鍵であけてもらえばいいんだとすぐさま頼みに行く。
大家さんに急いで扉のカギを開けてもらい、中に入ると・・・。
「う・・・ぐっ・・・」
部屋はゴミの山と化したみたいにぐちゃぐちゃで、台所なんかはハエが何匹か飛んでいた。
その台所の下に、なぐられたのか左側の顔が腫れ上がって服には数滴の血が付いてだらんと座っている柚希の姿があった。
「柚希ちゃん!!」
急いで柚希に駆け寄り、大家さんに救急車を呼んでもらう。
「しっかりして、柚希ちゃん!」
「おば・・・さん・・・?
なんで・・・」
目がうつろいでいるが、私だとわかるぐらいの意識は残っていた。
「これ・・・姉さんにされたの?」
小さく震えながらこくんとうなずく。
「そんな・・・」
信じられなかった。
昔は優しくて頼りがいのあったあの姉さんが、実の娘をこんな姿にするまで体罰を与えるなんて・・・。
姉さんの旦那さんの英樹さんが亡くなってからおかしくなってしまったんだろうか・・・。
とりあえず柚希を病院へ送り、先生に今の状態を詳しく聞いた。
「あともう少し遅ければ、柚希さんは死んでいたと思います・・・。
栄養が足りなくやせ細り、餓死していたでしょう」



