「あ、おじゃまします・・・」
軽く頭を下げる。
「ごめんね、変な所見せちゃって」
「いえ、すいません。
勝手に聞いちゃって・・・」
「いいのよ。
ずっと立ってるのもあれだし、座って?」
「はい」
柚希のお母さんに誘導され、テーブルの椅子に座る。
正面にお母さん、横に妹が座った。
「空くん・・・だっけ?」
「はい」
「柚希から何か聞いてたりしてる?」
「何かって・・・?」
「お母さんのこととか・・・」
お母さん?
「いえ、何も聞いてません」
そういえば柚希が倒れた日ってお母さんから電話があった日なんだよな?
今日の柚希は怒ってたけど、お母さんに対して怯えてるって様子はなかった。
「あの・・・柚希が倒れる前に電話してきたのってあなたですよね?」
「え?」
「何で柚希はあんなに震えていたんですか?
まるで怯えているような・・・」
「・・・そう、やっぱりまだ柚希はあの人に怯えているのね」
え?
どういうことだ?
あの人?
あの人って柚希のお母さんのこと?
でも柚希のお母さんは目の前にいるこの人なんじゃ・・・。
「あ、ごめんなさい。
紹介が遅れたわね。
私は、中村小百合って言うの。
この子は私の娘のすみれ。
そして・・・柚希の母親でもあり、おばさんでもあるのよ」
「母親でもあり、おばさん・・・?」
どういうことだ・・・?
「空くん、あなたなら柚希を助けられるかもしれない。
今から話すことは、柚希の思い出したくもない最悪な過去よ・・・」
柚希が1人で背負ってきた最悪な過去・・・。
俺はこれを聞いたらもう逃げることはできない。
聞いてませんなんて許されない。
「・・・聞かせてください、柚希の過去を!」
柚希を助けたい。
部室に戻ってきて欲しい。
また、みんなと一緒に笑いあいたい。
俺は覚悟を決め、小百合さんの話に耳をかたむけた。



