「真理奈ー!
どこだー!?」
懐中電灯を持って探しながら走り続ける。
さっき哉斗が懐中電灯を持ってたってことは、真理奈は光を持ってない。
こんな真っ暗な、しかも森の中一人でいたら絶対に怖いはずだ。
早く見つけないと・・・。
柚希が暗闇と大きな音で小さく震えていたのを思い出す。
「くそっ」
今頃哉斗たちが綾音さんたちに知らせに行ってるはずだ。
その間にも俺は探し続ける。
「真理奈ー!
いたら返事してくれ!」
叫ぶような大声を出す。
人生の中でもこんなに叫ぶのは初めてかもしれない。
「・・・・」
ふと、声が聞こえた気がした。
ピタッと足を止めてもう一度声に集中する。
「空・・・くん・・・」
今にも消え入りそうな小さな声が耳の中に聞こえてきた。
「真理奈!?」
声のした方を向いて足を進めて行く。
茂みの中に入って歩いてると、何か丸い影を見つけた。
持っていた懐中電灯でゆっくり当ててみる。
すると、そこにはしゃがみこんでぐすぐすと泣いてる真理奈がいた。
「真理奈・・・」
「そ、空くん・・・」
「やっと見つけた・・・。
たくっ、心配かけさせんなよ・・・」
真理奈が無事に見つかって安心したのか、俺もホッとしてしゃがみこむ。
「そ、空くん・・・。
こわ、怖かった・・・です・・・」
ボロボロと泣きやむことなく涙を流す。
「もう大丈夫だって」
まるで泣きじゃくる小さな子供みたいだった。
そんな真理奈が愛しく思えてよしよしと頭を撫でる。
「哉斗が心配してたぞ。
戻ったら真っ先にお礼言ったほうがいい」
こくこくとうなずく真理奈に微笑んで、手を取って立たせた。
「歩けるか?」
「はい、大丈夫・・・です。
ありがとうございます」
泣き止んだ真理奈は軽く頭を下げた。
「また迷子になられると困るから、このまま手繋いどくぞ」
「え・・・あっ、はい・・・」
手を繋いで歩き始めると、真理奈は下を向いてしまった。
ま、無事に見つかってよかった。
あっそうだ、みんなに見つかったってメール送っとこう。
「あ、あの、空くん・・・」
「ん?」
「ごめんなさい、迷惑かけてしまって・・・」
「いや、別にかまわないさ」
こうして一緒に歩けてることだし・・・。
って、まるで俺が真理奈と歩きたかったみたいじゃないか!
「と、ところで真理奈は何に驚いて悲鳴上げたんだ?」
慌てて話題を変える。
「え・・・。
えっと、その・・・。
何か光ってたのを見てしまって・・・」
つないでない方の手を口元に持っていき、説明を始める真理奈。
話によれば、哉斗と一緒に歩いてる時、遠くの暗闇の方で黄緑色に光る何かを見たらしい。
「それ哉斗も見た?」
「いえ、見た瞬間私悲鳴あげて逃げ出してしまって・・・。
哉斗くんにも見えていたのかはわかりません・・・」
「そう・・・」
黄緑色に光る光・・・。
夏・・・。
森・・・。
まさか・・・。
「その光って1つだけだった?」
「いえ、私が見た限りだと、3つくらいはあったかと・・・」
「なるほど。
見たのってどのあたり?」
「え?
えっと・・・よく覚えてないんですけど、水の音が近くでしてたような気がします」
「やっぱり・・・」
そう言うかいなか、俺は耳をすまして水の音に集中した。
「そ、空くん・・・?」
不安そうに俺の顔を覗く真理奈に、シッと言って静かにさせる。
「ザー・・・ザー・・・」
「聞こえた!」
「え?」
俺はつないでいる真理奈の手を握って、聞こえてきた水の音の場所に進んで行った。
「真理奈、ラッキーだったかもな」
「え?
どういうことですか?」
「すぐにわかるさ」
どんどん水の音が近くなってくる。
いや、これは水の音というより・・・川の音だ。
「着いた」
近くの茂みから出ると・・・。
「うわ~・・・」
そこは川が流れている場所にたどりついた。
そして、何十匹と黄緑色の光を放ち飛んでいる蛍たち。
「きっと真理奈が見たのは蛍だったんだ」
「キレイ・・・。
私蛍なんて初めて見ました・・・」
感動しているのか、つながれた手にギュッと力が込められるのを感じる。
「真理奈のおかげでいいもん見れたな」
隣で蛍を見ていた真理奈に笑いかける。
すると真理奈は下を向いて
「空くんが見つけてくれたおかげだよ・・・」
と小さく呟いたのが聞こえた。
「みんなにも見せてやりたいな」
「そ、そうだね」
パッと顔を上げてにっこりとする真理奈。
まぁ、俺的にはこの場所は二人だけの秘密にしときたいけど・・・。
蛍を二人見ながら笑う。
こんな夏の思い出はもうないだろう。
俺は今日のこの時を、胸に刻み込んだ。